デービッドアトキンソン氏が指摘する「低すぎる日本の最低賃金」

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長かった安倍政権が終焉を迎えて、菅政権が誕生しました。

菅首相は、安倍政権の下で日本の成長戦略を立案し推進していた未来投資会議を廃止し、新たに「成長戦略会議」を設置。

成長戦略会議は、日本国経済の持続的な成長を達成するために、成長戦略の具体化を推進する役割を菅政権の下で担うことになります。

民間から著名な有識者が選ばれており、日本商工会議所の三村明夫会頭などを筆頭に、日本の経済の中核を担う人物が名を連ねている中、異彩を放っているのが「デービットアトキンソン氏」です。

菅首相と懇意にしていると報じられており、インバウンド業界や中小企業の生産性向上のために尽力してきた人物ですが、あまりよく知らない方も多いのではないでしょうか。

全5回に渡って、菅政権の成長戦略会議メンバーであるデービットアトキンソン氏について詳しく掘り下げていく中で今回は第3回目になります。

  • デービットアトキンソン氏の主張概論(第一回)
  • 日本企業の生産性はなぜ低いのか(第二回)
  • 低すぎる日本の最低賃金(第三回)
  • 中小企業優遇政策はどう変わるのか?(第四回)
  • 今後日本企業がどうしていくべきか(第五回)

第3回では低過ぎる日本の最低賃金について氏の主張をまとめていきたいと思います。

 

最低賃金の低さは中小企業を守り生産性を落とす

 

前回の第2回では、生産性の低さは日本の中小企業の数が多いことが原因であるということについて解説してきました。

そして中小企業を支援し守る要因であるのが「 日本の最低賃金の低さ」なのです。

日本では人材評価というのは国際的にも高く、国際競争の中においてはまだトップ集団にギリギリかじりついている状況ではありますが、その中でも最低賃金が明らかに低すぎることが氏によって指摘されています。

通常労働している人のスキルが高ければ高いほど、 その給与水準というのは高くなるのが基本です。

実は日本人の人材評価というのは、様々な面から見ても先進国の中で群を抜いて高い評価を維持しています。

少しずつ順位は落としていますが、 世界の中でもトップを走っている状態には変わらないにもかかわらず、最低賃金がかなり低い状況です。

例えば他の先進国と比較すると、日本の最低賃金はドイツの83.8%、 イギリスの90.4%となっており明らかに低いのがわかるでしょう。

確かに最低賃金が低ければ、 国際的に評価の高い人材を中小企業が使うことができます。

つまり最低賃金が低いことによって、優秀な人材であっても中小企業で採用することが可能となっており、それにより中小企業が今なお数多く存在することができているのです。

中小企業が増えれば増えるほど、労働生産性が低くなるということはわかっているので、 最低賃金が低いことは明らかに問題だといえるでしょう。

 

最低賃金の低さで生産性が低迷する

 

最低賃金が低いことによって中小企業であっても、 優秀な人材を採用することができます。

最低賃金を低く維持することで、あたかも補助金に該当するほど中小企業は恩恵を受けているということができるのです。

最低賃金が低いことで補助金をもらえていると言えるほど優遇されているにもかかわらず、他にも様々な優遇策が中小企業には取られています。

実はこういった最低賃金の低さは、産業構造を大きく歪めさせ生産性を低迷させることにつながってしまうのです。

第一に優秀である人間の賃金が低いと、 お金がかかるであろう最先端技術が採用された機械などにお金をかけるインセンティブは大きく下がります。

優秀な人間を安い賃金で雇うことができるので、大量採用することでまかなうことができ、機械化などを図る必要がないので、結果として生産性が向上しないのです。

大量採用することができるのであれば、現在の問題をコストがかかる方法で解決する必要はなくなります。

加えて最低賃金が低いままであると、起業をする際のコストがかからなくなるので、小規模な企業が増えてしまうでしょう。

企業の規模が小さいと社員のスキルアップはできず、設備投資する余裕がなく、研究開発をする余裕もなくなってしまいます。

こういった企業は結局価格競争という安易な手段でしか、企業の競争に勝つことができずに、結果的には生産性は徐々に下がっていってしまうでしょう。

中小企業が増えれば増えるほど、 高いスキルを持った日本人の実力は発揮することができず、プラスアルファをする余裕もなくなってしまうので、また生産性が下がるという負のスパイラルに陥ってしまいます。

こういったことを防ぐためには、最低賃金を高くすることによって新規企業の乱立を防ぐことが必要であると氏は指摘しており、実際に他の国は最低賃金をあげることによって、生産性を維持しているのです。

 

monopsony理論

経済学では「雇用側が労働者に対して、相対的に強い交渉力を行使し割安で労働力を調達することができる」ことをmonopsony理論といいます。

具体的に言うと、雇用側が労働者より強い影響力を持っていることによって、労働市場が完全な競争状態にはなく、雇用側が圧倒的な影響力によって格安の賃金で労働者を雇う状態のことです。

最低賃金を設けることによって、数多くの経済学者たちは街に失業者たちが溢れかえるであろうということを予測しました。

しかし実際には世界中を見渡しても、 そういった状況に陥った国はありません。

なぜなら上記のmonopsony理論が働いているからです。

そもそも企業は労働者を、その生産性より低い賃金によって採用しているのであって、最低賃金が上がったとしても生産性の上回らない限りには、雇用が減ることはありません。

生産性以上の給料を払ってまで損をするくらいであれば、従業員を切ることによって損切りをするのが企業の常です。

しかし賃金が引き上げられたとしても、生産性を上回らないのであれば利益が減るだけだのであってその労働者を解雇することはありません。

最低賃金が低く、生産性が高い人材を採用することができる日本においては、 労働者はクビにされたくないという意識から、 賃金を上げて欲しいという発言をすることはしにくいです。

結果的に企業の影響力が強くなっていき、日本全体で割安な価格で労働力を調達することができるという状態になってしまっています。

つまり社会全体として競争力がない社会になってしまうのです。

こういった状況がなぜ問題があるのか、以下で詳しく見ていきましょう。

 

monopsonyを軽視すると生じる問題

 

このmonopsonyを軽視すると生じる問題は馬鹿にすることができないので、 以下ではどういった問題が生じるのかについてと日本でも当てはまっているのかについて解説していきます。

 

企業規模の縮小

 

まずは企業の規模が縮小します。

労働者は簡単に勤務先を変えることが起きないので、生産性の高い大企業が悪影響を受け、経済全体での生産性向上にも悪い影響を及ぼすのです。

最低賃金が低いと競争力がない社会になってしまうことは、上記でも紹介しました。

競争力が低ければ、最低賃金を上げなければ人を集めることはできません。

人が集まらなくなってしまうと、中堅企業や大企業に入る人材が少なくなってきてしまい、産業全体の構造が大きく歪み経済が働かなくなってしまうのです。

そうなることで、競争力はさらに低下し規模の小さい企業も数が残り大企業が育ちにくくなってしまうため、生産性がさらに下がってしまうという問題が生じてしまいます。

日本においても企業規模は中小企業の比率が非常に高く、大企業が少なくなっており当てはまっているといえるでしょう。

 

輸出比率が低下してしまう

 

monopsonyを軽視すると、輸出比率が低下してしまいます。

通常生産性が高い企業は、輸出をするために企業の人員を増やす必要があります。

しかし競争力のない非効率な労働市場では、労働者は簡単に企業を変えたりしないので最低賃金を高く設定しなければ人を集めることができません。

賃金を高く設定しまうことによって人件費がかさんでしまうので、輸出能力が低下します。

そしてまた従業員の賃金が上がることによって、市場での利益も圧迫されるようになり海外へ進出する余裕がなくなってしまうのです。

その結果輸出比率が低下してしまいます。

日本の輸出比率は先進国の中でも、非常に少なく世界平均が28.5%の一方で日本は16.1%に満たない数字です。

 

格差の拡大

 

賃金で働く人によって賃金を抑えることができるので、格差が拡大します。

平均所得は少しずつ減少し、労働分配率も下がってしまうので社会全体でリフレの圧力が強まるでしょう。

格差社会といわれている日本にもこれは当てはまり、最低賃金が低いことによって大きな収入の格差が生まれています。

 

労働市場の流動性がなくなる

 

労働市場の流動性がなくなってしまうという問題も生じます。

中途採用を嫌うと労働者が簡単には転職することができなくなるので、雇用する側の影響力が高まってしまい、その結果割安で労働者を雇うことが可能になるのです。

用意することができなくなると、労働者もどこの企業でも活用できるようなスキルより、自分が今働いている企業で役に立つスキル・派閥・社内人脈など仕事には関係のないところに時間を使うようになってしまいます。

その結果専門的なスキルは高まりますが、転職することに役立つものは得ることができず、労働市場の流動性は著しく落ちてしまうでしょう。

 

最低賃金をあげることによってmonopsony状態を脱するべき日本

 

こういった問題は最低賃金を上げる事によって解決することができるといわれています。

本来であれば人材評価の高い日本は、その高い能力を活かすことによって生産性を高め、日本という国全体で豊かで健全な財政の国を作ることができたはずです。

しかし最低賃金を著しく低い価格に設定したことによって、monopsony状態が生まれ企業の影響力は高まり不当な安い価格で人材を使いまわすことができる状態になってしまっています。

こういった状態が続いてしまえば、人材のスキルアップに投じるお金はなくなり、研究開発する余裕もなく、企業規模がどんどん縮小して行ってしまうでしょう。

企業規模も縮小してしまえば生産性はどんどん下がっていってしまいます。

最低賃金を上げることができれば、まず起きるのは生産性の低い企業が起業しづらくなるということです。

安い価格で人材を採用することができなくなるので、小さい企業が生まれることが起きなくなり、その結果生産性は向上します。

また最低賃金を引き上げることは、 会社としては人材にかかるコストが大きくなるため、利益をより生み出す必要から、商品の付加価値を高める必要が出てくるでしょう。

商品の付加価値を高めるためには、機械や人材に投資をしなければなりません。

その結果既存の企業に対しての大きな刺激になるといえるでしょう。

しかし現在ではそもそも最低賃金があまりにも低いために、会社としては人材にかかるコストが少ないため付加価値の低い商品で生産性が著しく低かったとしても、経営を維持することができます。

経営者たちのお尻に火をつけ生産性を高めるためにも、最低賃金を引き上げる必要があるのです。

最低賃金の引き上げは、 生産性の低い企業から労働者を解放する役割も果たします。

最低賃金が低いままだと、生産性が低い企業でも高い能力の人材を使い倒すことができるために無駄に生き残ってしまうでしょう。

人口が増える社会であればこういった状態でも問題はありませんが、少子高齢化を迎えている日本においては、 生産性の低い企業を淘汰し優秀な労働者を生産性の高い企業へと映らせる必要があります。

そのためには最低賃金を引き上げることによって、多くの企業の生産性を向上させいらない企業を排除する必要があるのです。

そうすることで生産性の低い企業から、 優秀な労働者を移らせることができるでしょう。

 

最低賃金を上げることで生産性をあげなければならない日本

 

今回紹介したように生産性を高めるためには最低賃金を引き上げることが最も重要です。

 

中小企業の規模の定義が小さい
中小企業に対する優遇策が手厚い
大企業に対する厳しい規制がある
最低賃金が低い

 

こういった特徴を持っていると、生産性が低くなり産業構造が非効率になってしまうといわれています。

日本社会は完全にすべての特徴が当てはまっており、企業の生産性が著しく低くなってしまっている状況です。

人口が増加していた時代にはこういった問題は重要視されていませんでしたが、 少子高齢化が加速度的に進み企業の生産性を改善していかなければならない時代には、 一刻も早くこういった状況を改善しなければなりません。

そのためには最低賃金を少しずつ引き上げ、無駄に存在している小規模な企業を淘汰しする必要が出てくるでしょう。

改革には痛みを伴いますが、 こういった策をとらなければ人口が少なくなっていく日本は 国際社会で競争力を失ってしまいます。

競争力を失ってしまえば、搾取されてしまう国へと変貌してしまうので日本の構造を見直す必要があるでしょう。

そのためにも有効な手段が最低賃金の引き上げなのです。

今回は日本の生産性を著しく下げている原因の一つでもある、 最低賃金の低さについて氏の主張をまとめてきました。

次回では中小企業の優遇政策がどのように変わるのかについて紹介していきます。

 

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