日本には創業または設立100年を超える企業が世界中でもっと多く、東京商工リサーチの「全国老舗企業調査」によればその数は3万社以上に上ります。
しかし災害や不況の困難を乗り越え、100年以上継承を続けていくことも決してたやすいことではなかったはずです。
順風満帆にも思える老舗企業ですが、老舗を継承し続けていく企業オーナーにはどのような悩みがあるのでしょうか。
また困難をどのように解消してきたのか、その秘策について探っていきたいと思います。
老舗企業の特徴のひとつに、ファミリー経営があります。後継者となる者には幼少期から社訓や経営のノウハウを学ばせ、将来後継者になるべく教訓を伝えることで企業内の不祥事を防止してきました。
しかし男児の誕生が望まれる家系に嫁いでくる女性のプレッシャーは想像を絶し、老舗のれんを支えるための家訓を姑から嫁へと引き継ぐ壮絶な背景があったのではないでしょうか。
とはいえ現代では、生まれもった性格や子どもの意思尊重により息子への継承にこだわらず、娘婿に家業を任せるケースもあります。
むしろ適任ではない息子を後継者にするよりも、先代が娘婿を選んだ方が繁栄につながるということです。
ただ自由恋愛が許されなかった時代とは違い、親が娘婿を選ぶことも難しいでしょうから、後継者選びは老舗オーナーが抱く悩みのひとつになってきます。
老舗企業では、先代オーナーと新規オーナーとの交代時期も悩みのひとつです。オーナーの高齢化に関係なく、継承する前に先代が倒れてしまうケースも少なくありません。
むしろ継承者が決まっていない段階で予測していなかった事態が起こった場合、残された親族で老舗企業を継承していくのは簡単ではないでしょう。
とはいえ時期が早すぎても、先代と現オーナーとの関係性が難しくなる場合もあります。
どのタイミングで世代交代を行うか、時期を見計らうのは非常に難しいところでしょう。
老舗企業は、100年200年と代々受け継がれてきています。しかし移り変わり時代背景の中災害や不況に見舞われることもあり、老舗企業とはいえ企業存続の危機に見舞われることもあったでしょう。
とはいえ、先代は幾度の試練を乗り越えて経営を続けてきています。老舗企業だからこそ、「失敗したらもういちどやればいい」というわけにはいきません。
なぜならその時点で継承が途絶えてしまい、老舗企業ではなくなってしまうからです。
失敗が許されない老舗企業オーナーは、当事者にしかわからない重圧を抱えているのではないでしょうか。
たとえ世代交代をしたとしても、会社存続の重圧を解消することは許されないのも老舗企業オーナーならではの悩みです。
老舗企業の経営は、親族経営です。しかもどれだけ優秀なオーナーでも、従業員なくしては企業の存続は難しくなるでしょう。
この問題を解消する秘策は、従業員をまとめることができるリーダー的存在の人材育成です。老舗企業とはいえ、オーナーのワンマン経営が先行してしまうと人は離れていってしまうもの、従業員とオーナーとの関係を上手く取りまとめてくれる従業員は、老舗企業にとって必要不可欠といえます。
老舗企業には、代々続いている従業員も多いです。しかし高齢化が進み、ベテラン層の従業員が減ってしまうことも懸念材料です。
ここで問題は、オーナーの世代交代に伴い従業員の企業離れです。
創業以来から勤めていた昔堅気の職人さんはオーナーの世代交代に敏感なこともあり、高齢を理由に辞めてしまうケースもあります。
従業員の高齢化に伴い円滑に世代交代を行っていけるかどうかは老舗企業オーナーの役割であり、頭を悩ます要因のひとつです。
老舗企業には、代々継承された技術や知恵が多くある反面、時代背景の移り変わりと共に世間とのずれが生じることもでてきます。
とはいえ時代背景の移り変わりは激しい中、流行に流されてしまったのでは老舗の良さが活かせません。
老舗企業が代々発展継続してきた背景には、時代に合わせた革新を起こしてきたこともあります。
しかしそこには、オーナーと従業員との摩擦が起こりやすいリスクが伴います。
従業員の理解と協力なくしては革新を行うこともできませんので、オーナーと従業員との信頼関係ができているかどうかが、悩み解消の秘策になります。
老舗企業は親族経営のため、一般企業のように定年退職後に企業との関係が修了するわけではありません。
また親族間での経営ですので、先代オーナーも意見しやすい環境にあります。
現オーナーが先代の子どもであればなおさらのこと、経営に関して何かと口を出されて先代と現オーナーとのいさかいが始まることもあるのではないでしょうか。
そのやり取りに巻き込まれ、困惑するのは従業員です。代々受け継がれてきた企業のためとはいえ、オーナーが世代交代した後親子関係に悩まされることもあるでしょう。
老舗企業の中には、旅館や店舗も含まれます。古き良き時代背景を残す旅館の常連客や、代々受け継がれる味を買い求めにくる顧客もいるでしょう。
しかし時代と共に施設の老朽化は、新規顧客には受け入れにくいところでもあります。
次々と新しい店舗やホテルが建設される中、新規顧客を取り込むには改装や増築が必要になることもでてくるのではないでしょうか。
ただ簡単にはいかないのが老舗企業、その理由は改築をすることによって趣が変わってしまうリスクがあるはずです。
これは老舗企業ならではの悩みといえるでしょう。
老舗企業には、顧客名簿が代々受け継がれています。信用と伝統を重んじるのが老舗企業なので、顧客の中にも先代からの付き合いという関係性が成り立ちます。
しかし逆に考えると、顧客の固定化は新規顧客も開拓を妨げる要因にもなりかねません。
時代の流れと共に求めるものには変化がありますので、顧客が固定していることが原因となり企業の発展が衰退してしまう可能性もでてきます。
顧客の満足度を落とすことなく新規顧客をいかに取り込むか、老舗企業ならではの悩みともいえるでしょう。
先代から100年200年と続く老舗企業を続けていくためには、先にも述べたように後継者や社内でリーダー格となれる社員の存在が不可欠です。
しかし、いつか適任となる後継者がいなくなる時がこないとも限りません。
無理に企業を存続させることで、後継者に重荷を背負わせ従業員が路頭に迷うことになる事態が起きた時こそ、企業オーナーがもっとも悩み決断をせまられることになるのではないでしょうか。
老舗企業の引き際、これこそが老舗企業オーナーに課せられた責任の重さなのかもしれません。
老舗企業オーナーの悩み10選について、お伝えしました。
老舗企業には、老舗ならではの強みもあれば弱みもあります。
老舗企業のオーナー当事者にしかわからない悩みもあるでしょう。
しかし古き良き伝統を受け継ぎ次世代に引き継がれる老舗企業には、老舗ならではの多くの学びがあり、私たちの生活に役立つこともあります。
長い歴史の中、激動の時代を乗り越えてきた老舗企業について、少しでも興味をもっていただければ幸いです。