老舗で働く醍醐味

老舗で働く醍醐味

実は老舗という言葉に厳密な年数での定義はありません。
ITなどの新しい業界では5年程度でも老舗やベテランという言葉が聞かれますし、京都のような歴史ある場所では100年でも老舗扱いされないという話もあります。

昨今はIT関係の新興企業が持て囃される風潮があることは確かですが、一方で、老舗で働くことの醍醐味、魅力もまた捨てがたいものです。
筆者自身も独立するまでに勤めていた企業は創業90年を超える老舗企業(製造業)で、多くを学び、成長する機会を得ました。退職して数年経った今でも感謝をしています。

また、老舗企業の周りには老舗企業が多く、他社を含めて多くのケースを見聞きした経験から老舗で働く醍醐味に迫ってみたいと思います。

技術、開発力、顧客基盤に優れていて、新しいことへ取り組むにあたり土台があること

まず思いつく老舗で働く醍醐味として、数十年生き残ってきた製品、商品、サービスもしくはその開発力を武器に商売ができるという点です。
社会全体を見てみると、プロダクトライフサイクルは短くなる一方です。

長らく音楽視聴用のメディアとして君臨していたカセットテープに取って代わったMD(MiniDisc)。
当時は画期的な製品に見え、若者を中心に大ヒットしましたが、あっという間にiPodに代表される、大量に音楽を保存できる次世代プレーヤーに駆逐されてしまいました。現在ではそのiPodもスマートフォンに内包され、音楽専用プレーヤーのシェアはとても小さくなっています。

そんな中、数十年にわたって利益を生み続けてきた製品、サービスや、その都度利益を生む製品を作り続けてきた開発力は非常に貴重なリソースであることは明らかです。

また、長い業歴の中で培ってきた強固な顧客基盤も老舗ならではのものです。
新商品やサービスのを開発に取り組む場合も、既存の顧客基盤を活かすことで大きく成功確率を上げることができます。

老舗で働く=長い間生き残ってきた製品、サービスや開発力、顧客基盤の上で戦える。
数年後に市場ごと消えるかもしれない現代においては非常に大きな武器となります。

老舗というと昔ながらの仕事という印象を持っているかもしれませんが、実は新しいことに挑戦する上で非常に魅力的な環境であると言えます。

歴史がある会社で働くということ。

当たり前ですが、老舗企業には歴史があります。歴史があるということは、その年数分だけ積み上がった信用があるということでもあります。
長期間に渡って利子を払い続けてきた銀行には信用されているでしょうし、長期間に渡って地元に雇用を提供し続けたことで地元からの信用も厚いでしょう。

言い換えれば、感謝されているということでもあり、この感謝されている会社の中で働くというのは大きな魅力ですし、この歴史を引き継ぎ、未来を切り開いていくのは大きな醍醐味と言えそうです。

また、老舗企業では「地元採用枠」という枠を設定している場合があり、地元高校卒業生などの雇用の受け皿になっていたりしますが、30年以上の企業となると親子2代に渡って、というケースも出てきます。
社内結婚も含めて家族的というより本当に家族で働くことが多いのも特徴の一つでしょう。地方の老舗企業は「地元の名士」として広く尊敬を集めているケースも多いですよね。

これも歴史に関係してきますが、筆者個人が印象的だった老舗の醍醐味は、職人さんとの出会いでした。

製造業で90年の企業でしたのでその多くは機械化、自動化されていたのですが、どういうわけか検査機械が発見出来ないキズを見つけられるベテランの方に驚きましたし、他にもあらゆるトラブルに瞬時に対応できるベテラン技術者の存在も、事務方だった私から見るととても頼りがいのある存在でした。

更には、世界的に非常に希少な経験をお持ちの技術者にも数名会うことが出来、退職後も世界中の企業に請われ、70歳を過ぎてもなお外国で働き、現地の若者に技術を伝える姿を目撃できたのも老舗ならではの醍醐味でしょう。

成熟した組織で働くということ。

その時間の経過の中で、会社を興した初期段階に起こる問題は全て解決されています。業種や会社の大きさにもよりますが、分業や役割分担も進んでおり、自分の業務に集中しやすいことや、相談相手がいること、相談相手が明確であることも老舗の魅力であります。

最近では「メンター」という言葉をよく聞きますが、指導者や助言者と言った意味の英語です。
老舗ではこのメンターを見つけやすい、また複数見つけることができるのは新人社員としてはとてもありがたいことでした。

また、老舗企業はその歴史の中で拠点を拡張している場合も多く、その拠点は国内外に点在していたりします。
所変われば仕事の仕方も変わるもので、色々な場所で働くことができるのも(昨今ワークライフバランスの問題はあれど、)大きな魅力です。

筆者の場合は東京で海外営業部、神奈川の本社で経営企画室、中国の製造拠点、タイの販売拠点と渡り歩き、何ものにも代え難い素晴らしい経験をさせて頂きました。
中国の拠点ですら初進出から数十年が経過していましたので、各拠点それぞれが、ある程度成熟しているという点も、見逃せない老舗ならではのポイントです。

社外の老舗企業と働くということ。

その会社自体が老舗であるということは、取引先や顧客など、社外の関係先も老舗が多いということになります。

こちらが顧客なのになぜか高圧的な業者さんや、とてもフレンドリーな長年の顧客企業の方など、社外の老舗企業の方に鍛えてもらえる、一緒に仕事をしていくというのも醍醐味を感じる部分でした。

マレーシアのお客様を工場見学にお連れした時の話ですが、工場自体は初めて見るものの、製品や業界の知識は先方のほうが遥かに多いため、お客様に教えてもらいながら工場を歩きましたが、こういうこともよく起こります。

販売についても老舗ならではの点があります。
もちろん新規開拓営業だけをし続けて老舗企業になっている営業会社もあるとは思いますが、老舗企業の多くは付き合いの長い顧客を多く持っており、営業がしやすいことも働く側としては大きな魅力になります。

新人は既存のルート営業で鍛えてから、新規開拓部隊に配属すると言った、段階を踏んでいけるということも、特に今どきの若者にとっては魅力的に映るでしょう。

付き合いの長いお客様の中には、こちらの社員を鍛えてやろうと積極的に教えてくださる方もいて、筆者もあるお客様に、ただ大学の後輩であるというだけで、それも40年以上の後輩である筆者をかわいがってくださり、事あるごとに食事に誘って頂き、中国へ赴任する際には贈り物まで頂きました。

こういった義理や人情の中で、成長しながら仕事をしていくことも老舗企業で働く醍醐味としてとても印象に残っています。

老舗で働く醍醐味、魅了は確かにある。

ここまで老舗企業の良いところばかりをご紹介してきましたが、当然ながら、物事全てが良いことばかりではありません。
組織の硬直化や、その産業自体の斜陽化といった大きな問題も確かにあるでしょう。特に近年は若者からそういった面を避けられているような印象もあります。

しかしながら、ここまで紹介してきた「老舗で働く醍醐味」はそっくりそのまま「老舗企業の強み」と言いかえることが出来ます。

有名な話ですが、写真のフィルムを作っていた富士フィルムは、「世の中でフィルムがほとんど使われなくなる」という大きな変化に対して、写真フィルムのビジネスで培った技術、ノウハウなどの会社の力を使って、医療・素材・化粧品と言った新規事業を立ち上げ、収益の柱のひとつにまでしました。

これからの老舗で働く最大の醍醐味は、その企業が持つ全ての資産をフル活用しながら新しい時代に向かっていくことができるという点になるのかもしれません。

 

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