世界で猛威を奮っている新型コロナウイルスによって、日本でも様々な企業が苦境に立たされています。
そんな中で東証1部にも上場している超大手企業の1社が、苦境に耐えきれず経営破綻したというニュースが飛び込んできました。
老舗アパレルの「レナウン」です。
レナウンは1902年に創業されて、日本が大きく経済成長している時期に上手く時代の波に乗ったことにより世界でも有数のアパレル企業になるまで成長した企業になります。
アパレル企業として衣類や雑貨の企画・製造・販売までを手広く扱っており、紳士服の「ダーバン」「スタジオダーバイン」、婦人服の「シンプルライフ」「エレメントオブシンプルライフ」などを筆頭に合計30以上のブランドを展開している超大手企業です。
現在では国内に数カ所の生産子会社を構えているブランドであり、破産の影響は様々なところに広がるでしょう。
コロナウイルス感染拡大という特殊な事情もありましたが、なぜレナウンは破産するまでに至ってしまったのでしょうか。
そこには決してコロナウイルス感染拡大だけには止まらない深い理由がありました。
そこで今回はレナウンの破産というケースを参考に、同じような事態へと陥らないために老舗企業が学ぶべき事を紹介していきます。
レナウン破産にトドメをさしたのは、中国を中心に世界へと爆発的に感染した新型コロナウイルスです。
もっとも新型コロナウイルス感染拡大の前から元々日本国内では、アパレル業界全体が苦境に立たされていました。
消費税の引き上げによる消費者の買い控えや記録的な暖冬によって、コートやアウターなどを代表とする冬物の販売の売れ行きが悪かったことが大きく影響していたことが原因です。
アパレル業界がこういった苦境に立たされていた中で、なんとか経営改善を図っていこうと目論んでいた矢先、新型コロナウイルス感染拡大が起こりました。
レナウンでは主要な販売経路が百貨店などに依存していたところ、コロナウイルス感染拡大で消費者の自粛や消費の縮小が生じ、百貨店そのものも壊滅的な打撃。
百貨店に頼りきっていたレナウンもそれに伴い売上が目に見えて落ちていき、破産という結末になってしまったのです。
もっともレナウンは、コロナウイルス感染拡大がなかったとしても潰れていた可能性があると有識者は指摘しています。
以前はオンラインなどでは購入を控えていた消費者も、技術の発達とともに徐々に需要が増え今ではアパレル業界もオンラインショッピングに対応するのが当たり前の時代となっています。
自社でのECサイトを有するユニクロやしまむらといったアパレル業界の競合他社は、早々に技術投資を行い時代に即した販売を行っていましたが、レナウンはそれを怠り既存の販売戦略から脱しようとはしなかったのです。
生産や物流拠点でも、ユニクロを初めとした他のアパレル企業はロボットやAI技術を取り入れることで、業務効率の改善や自動化を進めていました。
しかしレナウンは旧態然とした手作業による作業を行っており、なんら最先端技術を取り入れることもなくいたので、業務の効率化や自動化といった面で大きく差をつけられることに…。
そのためコロナウイルス感染拡大という特殊な事態が生じる前でも少しづつ経営状態は悪くなっており、2019年12月には2期続けての赤字を記録。
結局レナウンはコロナによって潰れるのが少し早まっただけとも見ることができるかも知れません。
経営状態が悪化を続けていたレナウンは、10年に中国繊維大手メーカーの山東如意科技集団から出資を受けていました。
現在ではこの山東如意科技集団はレナウンの株式を約5割保有するに至っており、実質的な親会社となっています。
この中国親会社の様々な意向を飲まなければいけない状況が長く続いていたレナウンは、国内でも抜本的な経営改革に着手することができずに、ずるずると潰れるまで至ってしまったのです。
現に20年2月には親会社のグループ会社である香港企業からの売掛金を回収することができずに、貸倒引当金が約53億円になったことを発表しました。
この売掛金は全く回収する目処が立てられないまま、レナウンと親会社山東如意科技集団の対立が深まってしまったという背景もあります。
EC業界や技術投資の遅れや親会社との対立をここまで紹介してきましたが、レナウンの潰れた本当の原因はこの2つが直接的な原因ではありません。
潰れた1番の原因は、レナウンと百貨店のぬるま湯ともいうべき関係にありました。
そもそもEC業界での出遅れによってインターネットショッピングでの売上がさほど期待できないレナウンは、その販売のほとんどを百貨店に依存していたという背景があります。
創業から高度成長期の時代を経て、レナウンの販売戦略は百貨店にくる消費者をターゲットにしたスタイルでしたが、インターネット技術が発達し生活スタイルが変わりつつある中で、少しづつ時代遅れになってしまったレナウン。
百貨店最盛期には、レナウン商品があれば客を集めることができる効果もあったため、百貨店はレナウン誘致に骨を折り機嫌を伺うといったこともよくあったといわれています。
つまりレナウンの成長と売上は全て百貨店に頼り切っていた部分があり、百貨店側もまたレナウンによって消費者を呼び込めるという共依存、ぬるま湯の関係になっていたのです。
消費者の生活スタイルの変化で失われた百貨店文化
消費者が買い物をしに百貨店に集まり、売上が順調に上がっていた時代にはレナウンと百貨店の関係も特に問題はありませんでした。
しかしそんな関係も改善しなければいけない時を迎えます。
なぜなら日本の経済成長がバブル崩壊と共に終焉を迎え、日本全体の景気も悪くなっていったことに加えて、高級な百貨店から安くて大量に買えるショッピングモールへと消費が移ってしまったのです。
その結果多くの百貨店から消費者が離れていき、少しづつ日本の各地で百貨店の衰退が始まっていきました。
この百貨店の衰退に伴い、販売経路を百貨店に依存していたレナウンの運命も破産へと着実に進んでいきます。
バブル崩壊後しばらく経った2005年には、投資ファンドによる出資を受けていましたがこれもすぐに底をついてしまい、2010年に上記で紹介した中国企業の傘下に入ることになったのです。
つまりレナウンはバブル崩壊から10〜20年経過した後でも百貨店とのぬるま湯関係を続けなんら改善を行わないまま現在に至ったともいえるでしょう。
そんなぬるま湯で共依存の関係にあったレナウンと百貨店の両者ですが、経営を改善するきっかけが近年ありました。
それはインバウンド(訪日外国人)によるものです。
中国人を代表とする海外からのお金を持った消費者が、百貨店で化粧品やアパレルといった商品を「爆買い」していくといったことが近年目立つようになりました。
社会現象ともなり流行語として選ばれるほどにもなった「爆買い」は、百貨店やそこに出店しているアパレル業者にとってはまさに救世主であったともいえるでしょう。
現に百貨店やそこに出店していたお店は、インバウンドで販売利益を伸ばすために中国語を話せるスタッフを急遽採用するなどしており、大きく利益を伸ばしていたのは確かです。
2019年の百貨店の商品別売上の構成は以下のような比率になっているのも、インバウンドの影響があったことも大きく関係しています。
食品 27.6%
衣料品 29.6%
化粧品など 20%
食品に続いて衣料品や化粧品が百貨店の販売比率のほとんどを占めており、インバウンドに依存しているのが見てとれるのではないでしょうか。
現に百貨店の現場では、1つの商品しか買わないであろう日本人客への接客は疎かにして、中国人などに対しては丁寧に説明するといったケースまでありました。
インバウンドが好調の時には、日本人客のますますの百貨店離れは気にならないものでしたが、コロナウイルス感染拡大によってその状況も一気に変わってしまいます。
訪日外国人はあっという間にいなくなり、残されたのはコロナで外出を控えた消費者のみでした。
その結果インバウンドに依存してきた百貨店とレナウンを初めとするアパレル業界は、苦境に立たされることになり、レナウンは破産という結末を迎えてしまいます。
レナウンと百貨店の依存から学ぶべき事はいくつもあります。
まずは共依存的関係の危うさです。
いくら利益が上がっているからといって、販売経路を1つに絞ることはビジネスにおいてあまりにも危険な選択でしょう。
現にレナウンは百貨店に販売経路を依存してしまったことによって、新規販売経路の開拓を怠ってしまい、EC事業といった新しい波に乗り遅れてしまっています。
既存の販売経路は確保しつつ、新規顧客を開拓しなければいけないはずだったレナウンは、そもそもAIやロボット技術を物流・生産領域に取り入れていないため、効率化を図ることができず新規開拓の余裕がなかったとも推測できるのではないでしょうか。
ユニクロやしまむらといった、競合他社は先端技術や新規販売経路の開拓に力を入れて企業として生き残ろうという企業努力をしていたにも関わらず、レナウンはそれを完全に怠っていたといえます。
またインバウンドへの依存も大きな問題だったといえるでしょう。
そもそもインバウンドは訪日してくれる人がいることが前提で成り立つビジネス形態です。
そのためなんらかのトラブルで訪日外国人の客足が途絶えてしまえば、一気にその利益は失われてしまいます。
しかしそれにも関わらずインバウンドに依存して、逆にメインのはずの日本人客への対応はおざなりになってしまう始末。
これではコロナウイルスの感染拡大がなかったとしても、訪日外国人がいなくなってしまえば前よりも悪化した経営状態になるのは目に見えています。
客足が鈍り販売経路の開拓をしてこなかった百貨店や、レナウンを初めとするアパレル業課にとってはインバウンドは藁にもすがる気持ちだったのでしょうか。
インバウンドによって好調の際にも、新規販売経路の開拓を怠って依存し続けていた百貨店・レナウンはコロナによって壊滅的な打撃を受けてしまいました。
業績が好調であれば好調な時ほど、新規販売経路の開拓などを行いリスクの分散を行うべきだと参考にすることができる良いケースです。
レナウン破産から老舗企業が学ぶべきことは今回紹介したようにいくつもあります。
その中でも1番学ぶべき重要ポイントは、依存関係を作らないということではないでしょうか。
ビジネスにおいて最も危険なのは、1つの販売経路に依存して共倒れになってしまうことです。
レナウンは百貨店に依存しきってしまい、ECなど好調な業界の波には乗り遅れ、技術投資を怠ることにより業務の効率化・自動化も導入できずにいました。
これでは競合他社に大きく遅れをとってしまうのは当然です。
最先端技術を取り入れて業務の改善・効率化を図り、新規顧客を獲得することを怠らないこと、これは老舗企業が注意しなければいけないことにもそっくりそのまま当てはまるでしょう。
変化を恐れて旧態然としたままでは、レナウンのようになってしまいかねません。
レナウンの破産から参考にすべきことを学び、自社の業務の改善・見直しに力を入れていく必要があるでしょう