ルイ・ヴィトンを代表とする高級メゾンを擁するフランスのブランドグループLVMHが、米宝飾品大手で世界中に知られているティファニーを買収するとの発表がされました。
ルイ・ヴィトンが買収にあたって支払う金額は、約160億ドル(日本円で1兆7,500億円)となっており、現代に至るまでのブランド業界において例を見ない買収劇となります。
世界最大のグループとして、順調に業績を伸ばしているルイ・ヴィトンがティファニーを買収した狙いは何でしょうか。
今回はルイ・ヴィトンがティファニーを買収した背景と、今後ティファニーはどうなっていくのかについて迫っていきます。
ルイ・ヴィトンは創業が1854年で、1970年代までは現在のように世界に知られるブランドグループというわけではなく、富裕層の一部を対象にした小規模なメーカーでした。
その後1987年にシャンパンメーカーである「モエ・ヘネシー」と合併したことで「LVMH ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー」となり、精力的に有名なブランドを買収することで巨大ブランド企業に成長したのです。
上記の有名なブランドはどれもルイ・ヴィトンの傘下に置かれているブランドであり、現在ルイ・ヴィトンは世界最高のラグジュアリーブランド企業の1つとして知られています。
フランスの富裕層だけを対象にしていたルイ・ヴィトンが、なぜこのような世界を代表とするブランド企業になったのかというと、そこには現在LVMHの会長をしているベルナール・アルノー氏が大きく関係しています。
アルノー氏はアメリカで経営に関してを学んだ後にフランスへと帰国した際に、知名度が高いブランドの潜在的な価値に目を付けビジネスを展開しました。
ヘネシーで有名なモエ・ヘネシー社と合併して、当時は知名度だけはあったが立ち枯れしている状態の様々なブランドを買収し、世界最大の巨大コングロマリアット(複合企業体)をたった一代で築き上げたのです。
ルイ・ヴィトンはブランドを買収した後、ブランドの名前・資産・イメージはそのままに残してブランドの独立性を担保します。
上記でグループの例としてあげた「ブルガリ」や「ウブロ」がルイ・ヴィトンのグループであることを知らなかったという人も多いでしょう。
このように「ブランドの独立性」はそのままに、広報や財務、物流といった雑務に関する機能は全てルイ・ヴィトン本社に集約します。
こうすることでルイ・ヴィトンの本社機能を活かした、スケールの大きい経営とブランドのイメージを損なうことのないブランディング展開をすることができるのです。
アルノー氏はヘネシー社と合併してから、一貫してこの手法で経営を行っており、現在の世界最大ブランドコングロマリアットを作り上げました。
つまり今回のルイ・ヴィトンのティファニーの買収目的も、「ブランドポートフォリオの拡大」と見ることができるでしょう。
ルイ・ヴィトンがティファニーを買収した理由は「ブランドポートフォリオの拡大」を狙ったものだと上記で軽く触れました。
最もルイ・ヴィトンの目的は、それだけではありません。
そこで他の考え得る買収理由について、以下で詳しく掘り下げていきましょう。
現在世界のブランド業界は、3つの巨大グループしのぎを削っている状態です。
どの企業もルイ・ヴィトンと同様に、ブランドの独自性を保ったまま買収を行っている企業です。
今回ティファニーの買収にあたっても、ルイ・ヴィトン以外の2社も興味を示していた状況でした。
こういった競争が激化するブランド業界において、売り上げを伸ばしていくためには新しくブランドを立ち上げて浸透させ、確立させていくという段階を踏んではあまりにも遅すぎます。
それよりも既にブランドが確立しており、世界中に一定のファンがいる企業を買収することで、一気にそのファンを取り込んでしまう方が効率が良く時間もかからないでしょう。
こういった考えの下で、ルイ・ヴィトンによるティファニーの買収は進められました。
ルイ・ヴィトンが莫大な費用を投じてまで、ティファニーを傘下に入れたかった理由として「宝飾品分野の成長を狙っていた」という点があります。
現在ルイ・ヴィトンでは上記の5つのブランドセグメントを保有しており、ティファニーは「ジュエリー」部門に参加することになります。
ジュエリー以外の部門では有名なブランドを保有していますが、ジュエリーではそれがなく宝飾品ビジネスにおいて遅れをとっているため、ティファニーを買収したのではないかと考察することが可能です。
現在宝飾品事業というのは、世界的に見ても需要が伸びつつあり中国・インドといった新興国の中では、大きな売り上げを期待することができます。
現在ルイ・ヴィトンのアジアを中心とした「ウォッチ・ジュエリー」部門の売上は、41億ユーロ(5,000億円)前後という状態です。
しかしこれはグループ全体での売上高としてみると10%にも満たない数字であり、ライバル企業のリシュモンの約70億ユーロ(約8,700億円)と比べると大きな差をつけられているといわざるを得ないでしょう。
新興国の莫大なマーケットで遅れを取らないためにも、宝飾品ブランドのトップ中のトップ「ティファニー」を買収したかったというのが1番の目的だったのではないでしょうか。
実は世界でも独立した宝飾系ブランドというのは、数多くはありません。
有名なヴァンクリフ&アーペルはブルガリが、カルティエはリシュモンの傘下としてグループの一員になっています。
そのため、ルイ・ヴィトンが宝飾系ブランドで大きく成長するためにはティファニーの買収が数少ない選択肢の中で1番可能性があったものなのです。
他の宝飾系ブランドも、ブランドコングロマリットの傘下としてどこかのグループに所属してることもあり、引き抜くということは現実的にかなり難しい状態でした。
その中でどこのグループにも所属していない独立した宝飾系ブランドのティファニーは、ルイ・ヴィトンからしても喉から手が出るくらい欲しい存在だったのです。
ルイ・ヴィトンなどを代表とするラグジュアリーブランドの企業というと、フランスやイタリアなどを中心とするヨーロッパ発のブランドがほとんどです。
上記であげた誰でも知っているようなブランドは、全てヨーロッパ発祥になります。
一方でティファニーはというと、貴重なアメリカ発祥のラグジュアリーブランドです。
世界的に売り上げを伸ばしたいルイ・ヴィトンとしては、ヨーロッパ発祥のブランドよりもアメリカを本拠地としているティファニーがかなり魅力的だったのでしょう。
実際一度買収は失敗しかけて、泥沼の訴訟合戦になりつつあった状態での今回の買収劇でした。
よほどルイ・ヴィトンがティファニーを欲していたという客観的な証拠といえます。
ラグジュアリーブランドというと金額的な面もあり、なかなかヤング世代には手が出しにくいという側面もあります。
最もティファニーは最高級なブランドイメージを有しているのにも関わらず、一般的な収入でも手に入りやすいようなジュエリーなども取り扱っているのが特徴です。
ティファニーがヤング世代に対しても、利用しやすい金額で商品を販売しているということは、世界中でも知られており、もしかするとラグジュアリーブランドの中でも若い世代の中では1番身近で好まれているブランドかもしれません。
ここにルイ・ヴィトンは目をつけました。
ルイ・ヴィトンが有している既存のブランドでは、ヤング世代では購入できない価格帯の商品を扱っているというのほとんどです。
そのためヤング世代に対して、影響力を広げていき年齢を重ねても愛用してもらうブランドになるためには、ティファニーは最適でした。
ルイ・ヴィトンという最高級のブランドが買収しても企業イメージの低下が生じることなく、購入しやすい価格帯の販売を行うことができるのはティファニーにしかできないからです。
ティファニーを取り込むことによって、今後の高級ブランドへのエントリーポイントとしての役割も果たさせる目的もあったのです。
ルイ・ヴィトンは莫大な金額約162億ドル(約1兆7600億円)を費やして、ティファニーを買収することに成功しました。
ルイ・ヴィトンの「ウォッチ&ジュエリー」部門の売り上げが41億2000万ユーロ(約4,945億円)だということを考えると、およそ売り上げの3倍近い金額で買収を行ったことになります。
もちろんルイ・ヴィトンの経営戦略として、買収したブランドの独立性は必ず保ったまま経営を続けていくので、ティファニーというブランド名がなくなるということはありません。
ティファニーはアメリカ発祥のブランドとして、アメリカはもちろんのことアジア太平洋側でも強い人気を誇っています。
そのためルイ・ヴィトングループがアジア太平洋での売り上げをさらに向上させるためにティファニーを活用していくことは間違いないでしょう。
ティファニーの買収が決まった後、ルイ・ヴィトン社のアルノー会長兼CEOは以下のように語っています。
「私は『ティファニー』を深く敬愛している。長い歴史を誇るアメリカのラグジュアリーブランドであり、そうした意味では唯一ともいえる存在だ。
ブランドを次世代に向けて磨き上げるのは時間が掛かるものだが、米国で上場していると短期的に利益を出すことを強く求められる。
もちろん私も利益を上げたいと思っているが、ブランドの魅力を最大限に引き出すには長期的な視点が必要だ。
10年後にブランドがさらに発展しているようにするには何をするべきなのか。
それをしっかり考えて行動すれば、利益は後からついてくる。経済的な成功はあくまでも結果であり、それが目標ではない」
この発言から考察できるものは、ブランドを長期的な目線で育てていくという氏の考えです。
上記でのルイ・ヴィトンの買収目的でも少し触れましたが、ブランド競争が激化する中において、ブランドを1から立ち上げ育てていくというのは簡単なことではありません。
短期的な目標を掲げてブランドイメージを損なうような経営を行っていると、10年20年後の世界ではブランドの名前が残っていないという可能性もあるでしょう。
ルイ・ヴィトンが今まで培ってきたブランド事業と今まで独立を貫いてきたティファニーが混ざり合うことで、より魅力的な商品やサービスが私達消費者の前に現れるかもしれません。
今後のルイ・ヴィトングループと新たに一員として参加することになったティファニーの動きに注目していきましょう。