総務省の調査では、2018年現在のスマートフォンの個人の所有率は 64.7%、 個人のインターネット利用率は79.8%、 SNS の利用率は60%に上るという。
もはやデジタルツールは、わたしたちの日常になったといえるだろう。
デジタルツールが日常化する変化は、伝統を重んじる老舗企業であっても、私たちと同様に影響を受けているのではないか。
それほど当たり前のようにデジタルツールは広がっているといえる。
老舗企業が変化するきっかけとして、どのようにデジタルツールを取り入れたのかそのきっかけを調べてみよう。
広辞苑によると、「老舗」という単語は、「動詞「仕似せる」に由来し、先祖代々の業を守りつぐこと。
先祖代々から続いて繁盛している店、また、それによって得た顧客の信用・愛顧。」と定義される。業を守りそして繁盛している企業がそれに該当するのだろう。
2018年の経済産業省の「ものづくり経済白書」で採用された帝国データバンクの資料によると、創業期が平成以降の会社はおよそ40%に及ぶ。
いかに企業が長く存続することは難しいのか。
明治あるいは明治以前の創業はわずかに1.8%の約23,000社に過ぎない。
企業には寿命があるといわれる。
平成の時代を通り抜け、昭和以前から続く会社は、何かしら変化を経ていると思う。
今回は、「デジタルツール」という切り口で老舗企業のキッカケを見てみたい。
ホテルおかだ ホームページより
ホテルおかだは、1953年に創業された老舗旅館で、年間12万人の利用客があり、温泉の源泉も3本を所有する大規模旅館である。
この老舗旅館は団体客をメインに売り上げを伸ばしてきたが、団体客だけでは経営に限界を感じ、個人客の獲得へとシフトする。
その背景には、旅行スタイルの変化がある。
個人客が団体ツアー客として旅行を楽しむことから、個人が自分で旅行をプランする、そんな時代の変化を読み取り、個人客の獲得が必要であると考えたからだ。
この顧客ターゲット層を、団体客から個人客へ変化させるにあたり、ネックとなったのは、予約の事務処理の増加、顧客ニーズが増加にともなう作業の複雑化である。
これに対応すること、これが老舗旅館はデジタル化のキッカケである。
ホテルおかだでは、宿泊管理にホテルシステムを導入する。
団体客がメインであればホテルシステムはさほど必要ではなかったであろう。
事実、創業者の孫であるシステムエンジニアであった原さんが入社した時には、思いのほかIT化が進んでいたという。
ただ残念なことにシステムを活かしきれてはいなかった。
そのため原さんはIT化を最適化する・ワードやエクセルの操作を簡単にするといったことから、もとシステムエンジニアは仕事を始めたのだという。
ホテルシステムがうまく稼働し、オンラインでの個人予約が増加するようになると、時間外や外国人からの問い合わせも増え、スタッフの作業量が増加することとなった。
そんななかで、ホテルおかだが次に取り入れたのはAI搭載のFAQシステムである。
このFAQを導入したきっかけは、原さんが従業員からの社内報告書では情報量や信憑性が低いと考えたためだという。
そのため、このAIであるFAQの導入にあたっては、あらかじめ約100の質問とその回答を学習させているのだという。
FAQシステムはAIが搭載されているため、検索ワードや顧客が参照にした回答をレポートし、分析をする。
そこから新しい情報を提供できるようになった。
旅館がまとめたものとは別に項目ごとに、お客様が質問の回答を見つけやすくするなど工夫がされている。
Q&Aのページに移動しなくても、ページごとにお客様が望むQ&Aを表示したり、よく見られる質問を上位に表示されるようにしたり、といった工夫がされている。
ホテルおかだの公式サイトのよくある質問をみると、近くのガラスの森美術館への行き方が詳しく説明されていたり、色付き浴衣の貸出し、ホテルの近くのコンビニ、ホテルの敷地外にある近くの露店風呂のことなどが詳しく説明されている。
色付き浴衣の貸出しは、当日予約だと500円だがホームページから予約をすれば無料になるという。こんなお得感があると個人客はまたウェブサイトで申し込みをしようと思うに違いない。
このきめ細やかなFAQは、英語版のホームページでも採用されおり、外国からのお客様に対しても効果を上げている。
ホテルおかだは、高級旅館並みのサービスをしていくのではないか。
これからも顧客の満足を高めて、顧客に選ばれる旅館になるのだと思う。
寺田倉庫は、創業が1950年の米を保存する倉庫が発端であるという。
そのなかでデジタル化のきっかけとなったのが、2000年頃に大手不動産業界が倉庫業に参入してきたため、顧客を個人にシフトしようとしたことがきっかけであるという。
日本の倉庫会社のオペレーションは世界一で紛失や盗難も少なく丁寧に安全性が高いといった業界では当たり前のことをアピールすることによって個人の利用者を増やすことができた。
ここで生まれたのが、「minikura」である。
「いつでも、どこでも、だれでも自分だけの倉庫を持つことができる」をコンセプトに、ウェブ上に個人が倉庫持つ事ができるようにしたという。
わずか月に250円。プロのカメラマンの写真30カット付きで300円である。
寺田倉庫の変革はさらに進み、アートと倉庫を合わせ、絵画をレンタルする事業も始めたのだという。
これからも倉庫という枠組みをこえて、個人が楽しめる何かを提供してくれるのだろう。
神戸にある老舗ベーカリーのケルンでは、人工知能 AI が導き出した消費者の好みに基づくカレーパンを開発して AI 特製カレーパンという名前で発売した。
Yahoo と神戸市がビッグデータを活用したパン作りを、ベーカリーケルンに提案したことがきっかけである。
パンの画像データをヤフーに提供し Yahoo も検索サイトの利用者アンケートの結果から消費者に好まれるパンを AI に最適化させた結果、歯ごたえと弾力のある食感で、辛さを抑えたカレーパンがもとめられたことが判明したのだという。この歯ごたえは、パンの底にオリーブオイルをつけておくことでできるのだという。
このカレーパンは、販売店舗を一店舗に固定したこともあり、Yahooとのコラボもあって、話題性をもった。
このカレーパンの背景には、078(ゼロ・ナナ・ハチ)という、「若者に選ばれ、誰もが活躍するまち」神戸を実現するというプロジェクトがあった。
AIを使うことによりプロジェクトを成功させることができたといえる。
ケルン ホームページより
振り返ってみると、老舗企業がデジタル化をおこなうキッカケは、自ら望む大きな変化であるといえる。
ホテルおかだがターゲット層を団体客から個人客へとかえたとき、寺田倉庫がB to BからB toCに変わろうとしたとき。
いずれも大きな変化で、変わるにはそれなりの覚悟と投資が必要になる。
大きな変化を伴う投資には、アナログでは立ち向かえない何かを感じ、正しい情報を入手するために、デジタル化が起きるのだと考えられる。
コロナ自粛生活を経た私たちは、新たな返還期を迎えている。
一説には農業をみつけたときや産業革命と同じくらい大きな変化なのだという。SNSやZOOMといったデジタルはあまりにも自然に身近にある。
老舗企業であっても、従前のようなマスメディアに頼らない戦略は必要不可欠であろう。
変化しなければ残ることができない時代が来ている。
デジタル化の力を借りて、軽やかに変化をしてこの老舗企業のように次のステージに進みたい。