なぜ事業承継する際に多くの親子はもめてしまうのでしょうか?
誤解を恐れずに言ってしまえばそれは元々の親子関係がいびつだったからです。
親社長を最近流行りの【毒親】と断定してしまうのは少し気がとがめます。
【毒親】を【子供の人生を支配する親】と定義するなら、親社長はしっかり【毒親】の範疇に入っているのです。
親からすれば「冗談じゃない! ひどい子育てをした覚えはない!」
子供からしても「うちの親はそんなにひどい親じゃないよ!」と抵抗感じるかもしれません。
ひどい虐待をしてなくても、親の無言の圧力やコントロールを感じ取って育って子供はいつの間にか、「自己主張をすると他人の感情を害する」と感じるようになり、「自分の感情を表に出せない、自分の考えを主張できない」性格になってしまいます。
普通の親ならば、進学、就職するにつれて、だんだんと親の支配は薄まっていきますが、親の事業を手伝うようになったらそうはいきません。
親の言うことにますます従わないといけなくなり、仕事ができるようになればなるほど、その度合が深まっていきます。
「他人から嫌われたくない」という思いが強くなり、そして、本音を言わないで、状況に合わせて仮面を被り、自分を演じるようになります。
井上秀人氏著「毒父家族」では、その仮面を
「ヒーロー」
「クラウン」
「スケープゴート」
「ロストチャイルド」
「ケアテイカー」
の5種類で分類しています。
これは通常子供の頃のトラウマを抱えた【アダルトチルドレン】に当てはまる分類なのですが、親の事業の受け継いだ後継者にもぴったりあてはまります。
片や、親の方はと言うと初代であれば一代で事業をなした成功者で、家業を継いでいるとしても、ちゃんと事業を承継している経営者です。
自分の築き上げた功績に絶対の自信を持っています。
どうしてもワンマンで独善的になります。
社長が「話し合いがしたい」と人を集めたら、既に決定事項になっており、まわりのものは社長の意見にうなずくしかありません。
面倒なことは他の者に任せて、社長は自分の決めたことを有無を言わさず、従わせてます。
と、社員からの提案があっても、自分が馴染みのないことや、新しい挑戦には耳を傾けません。
自分の成功体験が忘れられず、自分のやり方を通そうとします。
と言いながら、「なぜうちの社員たちは自分の意見を言わないのか?」と首を傾げています。
事業を子供に継がせても、結局は同じです。
責任は子供に押し付けながら、権利は譲らないし、自分のやってきたことを否定する気配があったらどんな理不尽な行動でも行って阻止します。
家具販売会社の親子の確執はマスコミでも騒がれましたが、親子が意見をぶつけあって喧嘩するぐらいなら、まだ親子関係はいい方だと言えます。
お互いに会社の将来に対して、真剣に考えた上での意見の対立でした。
家具屋さんの娘さんは使命感のある「ヒーロー」的性格だったのでしょう。
古参の社員たちに、娘さんの改革についていけず親会長に泣きついたのでしょうか?
自分の代の時の経営は素晴らしかったと讃えられると、プライドがくすぐられます。
創業者は引退しても、自分の名誉やメンツを親子関係や世間の目よりも気にするものです。
問題は創業者に対してイエスマンの社員ばかり揃えていて、親娘の意見を取り結ぶ本気で会社の将来を考える社員が1人もいないことでした。
それは、創業者の責任であるとも言えます。
風林火山の武田家を滅ぼした戦犯として、信玄の息子勝頼が取り沙汰されますが、
近年の研究では勝頼は信玄を凌ぐ戦上手だったことが分かっています。
武田家の瓦解は既に信玄代からの統治しているシステムの弱さに合ったようです。
支配的な親に逆らうと損するということは、子供は重々承知しているからです。
黙っていれば文句を言われないので、ほとんどの後継者は何も意見を言わずに、昔からのことをするだけです。
それだけでは先細りすることは分かっていますが、新しいことにチャレンジして失敗して、罵倒されるより何もしない方が安全なのです。
ということで、賢い後継者は表面上は父には逆らわず、怒られそうな時はこっそり逃げ出し、商工会の青年会や町内会の集まり、ボランティア活動に全力を注ぎます。
5つの分類から見ると、会社の中では「ロストチャイルド」最初から存在しない人のように振る舞い、社外活動では「ケアテイカー」世話をする人や「ヒーロー」になります。
厳しい親の見ている会社の中では仕事をするのが当たり前、怒られることはあっても、褒められることはありえません。
その点、外の集まりは参加しただけで褒められるし、やりがいが満たされます。
上記ならまだいいのですが、親子関係がこじれると「クラウン」わざと道化を演じてお笑い役になる。
「スケープゴート」わざと悪いことや自滅的なことをして人の気を惹く。
これを後継者がやってしまうと、一気に傾いてしまいますが、決算書には出ないことなので一見目立ちません。
しかし、表面で対立するよりも、はるかに会社を蝕んでいます。
後になって、不祥事が発覚し、取り返しのつかないことになります。
散々創業者のことを人生の支配者と言ってきましたが、子供の方も親からずっと支配されてきたとは思いたくないのです。
むしろ誰よりも尊敬して、他人から親をけなされたら、真っ先にかばいたくなる。
そのことが親から自立する妨げになります。
自分の中にも、親を否定したい気持ちと肯定したい気持ちが渦巻いているのです。
また、親の仕事を手伝っているのに、いつまで経っても、後継者になる意思表示を示さない人がいます。
そんな子供の本音は「親の後なんて継ぎたくない」
親掛かりのうまみだけ吸い取って、跡は継ぐ気はサラサラないのです。
「親の手伝いをするんだから、のちのち跡を継ぐのは当然だろ!」と言うのは親の理屈です。
もともと意思確認をしなかった親に責任があると言えます。
親と子だからコミュニケーションが揉める。
親子だから黙っていても分かるだろうという、両者のある種の甘えがコミュニケーションを難しくしてます。
事業承継するのならば、他の社員以上に、話し合うことが必要ですね。