「顧客の購買プロセスの半分以上は営業に会う前に終わっている」
営業といえば、大量に電話をし、現場を周り、顧客接点を多く持ち、対面での商談にて受注する。
いわゆる足で稼ぐ営業がまず頭に浮かぶと思います。
しかし近年、IT化が進み顧客の購買意識・行動は大きく変わって来ています。
商品そのものの質だけでなく、サービスの質までが追求されるこの時代にいかにしてITを駆使しながら営業を仕組み化し、「科学」していくかが鍵になります。
そして、アメリカやヨーロッパでは大手ではなく中小企業(書籍内ではSMB企業)が先行して事例を作り、大手企業へと展開していきます。
SaaSに携わる人や営業職の方はもちろんのこと、IT時代に営業を勝ち抜くために中小企業の経営者の方にも読んで頂きたい1冊になっております。
1972年生まれ。早稲田大学卒業。
ハーバード・ビジネススクール General Management Programを修了。1996年に日本オラクルに入社し、セールスコンサルタントとして勤務。2001年に米オラクル本社に出向。
2004年米セールスフォース・ドットコムに転職し日本市場におけるオペレーションを担当。
翌年、同社日本法人に着任し、以後9年間に渡り日本市場における成長を牽引する。専務執行役員兼シニアバイスプレジデントを務めたのち、2014年に退職。
同年6月マルケト入社と同時に代表取締役社長に着任し、2017年10月には株式会社マルケト 代表取締役社長 アジア太平洋日本地域担当プレジデントに就任。
創業3年目で「働きがいのある会社」ランキングベストカンパニー受賞、小規模部門で1位入賞。
アレン・マイナー氏が会長を務めるJAPAN CLOUDのアドバイザー、ユーザベース「SPEEDA」事業マネジメント・アドバイザーをはじめ、SaaS領域のスタートアップのメンター、アドバイザーとしても活躍中。
【引用:shoeisha.co.jp/book/campaign/the-model】
タイトルにもなっている「THE MODEL」とは一体どのようなものなのか。
詳細な説明に入る前にまずは営業スタイルの変化について見ていきたいと思います。
PC・スマホの普及もあり、人々が目にするマーケティングメッセージは1970年代には1日あたり500程度でしたが、2004年には5000、近年では10000にものぼると言われています。
もちろん、毎日10000もの広告を見ている実感がないのは当然でほとんどが無意識化で処理しています。
その数の中で企業は「どうすれば顧客に届くメッセージになれるかどうか」を考えていかなければいけません。
ただ闇雲に数を打てば良いわけでもないのです。
およそ6割以上の顧客は「価格以上に顧客体験が重要」と考えており、最適なチャネルとタイミングで届けることが求められるのです。
さらに、購買プロセスのうち前半67%は営業担当者が接触する前に終わっているといるという調査データも発表されています。
今までは企業主導だった購買プロセスが、顧客主導へと変わってきているのです。
上にもあった通り、スマホを含むモバイル端末の所有率は84%にものぼります。
そのため、テレビやラジオ、印刷物が中心だったマーケティング手法はメール・SNS・ネット広告などにまで広がっていきました。
デジタルにシフトするにつれ、多くのデータが蓄積し、オンラインの行動データを分析することで顧客の行動や嗜好を読み解くことも可能となってきています。
マーケティング関連テクノロジー(以下マーテク)のカオスマップには新たなカテゴリーが追加され続け、2011年には約150種類だったマーテクの数は2018年には6829種類まで増加している現状があります。
マーテクを活用することで、ウェブの訪問履歴やクリック、動画視聴履歴、メールの開封など様々な行動データを取得でき、より精度の高い顧客プロファイル分析が可能になります。
1人ひとりの顧客のエンゲージメントを高め、営業接点の前に選ばれる存在に進化するためにマーテクは欠かせない武器となってきているのです。
それでは営業プロセスモデルの1つであるTHE MODELについて、ポイントを絞って見ていきたいと思います。
THE MODELでは、営業プロセスを段階ごとに4つに分解します。
これにより、仕事範囲の明確化や責任の所在を明らかにすることができるだけでなく改善すべきボトルネックを明確にすることができます。
また部門を分けることにより、専門性も高めていくこともできます。
4つの部門とは「マーケティング」「インサイドセールス」「営業(フィールドセールス)」「カスタマーサクセス」から成り立っています。
特に近年サブスクリプションモデルの出現などもあり、LTV(顧客生涯価値)を最大化するためにも「カスタマーサクセス」の重要度がより上がってきています。
各々の詳しい説明については次に章で見ていきます。
4つの部門に分けた後は、各プロセスごとにKPIを設定します。
ただし、部門間で連動するようにKPIを設定することが大きな特徴であり、大事なポイントになります。
マーケティング部門では
母数: 来訪者、成功率:獲得率、ゴール(KPI):見込み客数(リード)
と置きます。
この時、部門間で連動するために、次のインサイドセールスでは
母数: 見込み客数(リード)、成功率:案件化率、ゴール(KPI):案件数
とKPIが設定されます。
そのため、各部門が十分な母数を獲得しゴールを達成するためには分業ではなく、共業をする必要があります。
この章では、前の章で説明した4つの部門についてより細かく見ていこうと思います。
マーケティング部門のTHE MODELの入り口になります。
この部門がTHE MODELの方向性を決めていきます。
上にも書いた通り、近年は主導権が企業から顧客へと移ってきています。
また、チャネルもどんどん多様化しています。
それにより顧客は企業と接点を持つ前に大半の情報収集を終えている状態です。
マーケティングオートメーション(MA)の登場により、企業が得られる顧客情報も飛躍的に伸びてきているため、MAを使いこなしステージ設計を行うことで、マーケティングを測定可能にすることが重要である。
インサイドセールス部門では、マーケティング部門が獲得した顧客に対しアプローチを実施し、商談できる状態まで育成し営業にパスすることが目的です。
時間が制限されるからこそ、どれだけ業務効率を上げることができるかが鍵になります。
MAの代表的な機能の1つに「リードスコアリング」があります。
工場の検品のようなもので、一定基準を満たす顧客、すなわち購買意欲の高い顧客のみを営業に引き渡すようにする仕組みです。
属性や接触前の行動情報をもとにスコア化することで、より効率よく熱い顧客を営業へと送客することが出来ます。
また、購入は今ではないという65%の顧客に対しても、定期的な掘り起こしを実施し
商談につなげていくかがインサイドセールスで成果を上げるためには必要である。
営業部門はインサイドセールスからパスされた顧客に対し、具体的な提案を行い、クロージングを行う部門になります。
勝負を決める営業部門において、商談をプロセス分解することが大切になります。
細かな部分は割愛するが、以下の5つのフェーズに分けチェック進み具合をチェックしていきます。
1.リード以上、商談未満
2.ビジネス課題の認識
3.評価と選定
4.最終交渉と意思決定
5.稟議決済プロセス
また、マネジメント層は以下7つの項目について注意深く確認する必要があります。
・受注予定日
・金額
・フェーズ
・競合
・商談日数
・フェーズ滞留日数
・ネクストステップ
今期目標の達成も重要ですが、それを達成するための過程にしっかり目を向けることで中長期的な成長に繋げることが出来ます。
パイプラインの考え方・フォーキャスト(ヨミ)の考え方については割愛しますが、興味深い考え方が記載されているので気になる方はご一読ください。
営業部門の説明の最後は、受注を確実にする8つの項目(部下に対する質問)について記載します。
1.ネクストステップは何か、次のアポはいつか、確定していない要因は何か。
2.顧客の事業内容は何か、顧客の顧客は誰か、顧客の競合はどこか。
3.意思決定のキーパーソンは誰で、何故そう判断したのか。
4.役職関係なく「絶対に進めたい」と思う人はいるか。
5.顧客が今期に発注する理由は何か。
6.予算を持っている人は誰か。
7.顧客の企業文化は。
8.もし何もしなかったとしたらどうなるか。
最後にカスタマーサクセス部門になります。
契約を続けて欲しい企業と導入したからには成果を出したい顧客との双方の利害が一致したところに生まれた部署であり、競合他社との差別化にも繋がっていきます。
重要なのはただフォローするだけでなく、顧客の成功を定義し、今どの段階にいるかを計測、判定し、どのようなステージ変遷を経て成功へと導いていくかを考える必要があるのです。
これからの時代はカスタマーサクセスと営業が融合していく時代になっていきます。
ここからはTHE MODELを導入するメリットについて説明していきます。
業務内容を細分化・分業化することで各部門の効率と専門性を高めることが出来ます。
各部門ごとに必要なスキルは異なるため、集中して業務を行うことで今まで以上の顧客獲得を望むことが出来ます。
また、モデルとして構築することで人が入れ替わっても、誰かに依存することなく全体の営業力を維持することが可能になります。
部門ごとにKPIを設定し、業務範囲を明確にしたことでどの部門に問題が発生しているかがすぐに把握できるようになります。
また部門ごとにPDCAを回すことができるのでより早く柔軟に問題に向き合うことが出来ます。
部門を分けることにより営業が落とした案件をインサイドセールスがカバーすることが出来るなど共業体制として従来見落としていた案件に関しても再アプローチすることが可能になります。
様々なルートからアプローチ、フォローを実施することでマーケティングのコストを無駄にせず利益を最大化することが可能です。
最後にTHE MODEL活用時の注意点について説明していきます。
営業プロセスが分かれるため、顧客情報を精緻に共有する必要があります。
共有漏れが起きることで機械損失を招くケースもあるからです。
とはいえ、人だけだとミスもあり限界もあるため、MAをはじめとする様々なツールを活用していくことで問題を解決していきます。
本書で紹介されていたTHE MODELがあくまで一例になります。
部門の分け方やKPIの数字設定など、自社に合わせたパターンを構築していくことが大切です。
最終的なゴールを明確にした上で、それを達成するためのモデルを構築することを意識してください。