名古屋のモノづくり専門商社として創業70余年の歴史を誇る企業、三栄商事株式会社。
「新たな道を創造する」というミッションのもと、より良い組織づくりや新しいビジネスモデルを生み出すなど、革新的な挑戦を続けている。
そんな三栄商事の代表取締役社長である後藤正幸氏にこれまでの企業の歩みや今後の展望を伺った。
ーこんにちは。それでははじめに三栄商事の現在までの歩みを教えていただけますか?
はい、よろしくお願いいたします。
元々、私の祖父が三菱電機株式会社で勤務していました。
その後戦争が終戦し、日本が落ち着いた後に独立をして三栄商事を立ち上げました。
当時はモノが不足していて、どこからモノを仕入れたらいいのかわからない状況の中で、古巣の三菱電機株式会社から「こういうモノを探してほしい」という依頼を受けたことが事業のスタートだと聞いています。
当初は工具などの小さいものから始まり、徐々に測定器や分析器、そして工作機械の取り扱いがメインになってきました。最近では工場内の自動化の話が増加しています。
どういった自動化が一番適しているか提案をしてほしいというお話も多いですね。
ー自動化ということはRPAやAIの分野ということでしょうか。
RPAやAIの領域と言いたいところですが、それはもう1歩先のお話になります。まずは生産ラインの自動化の提案がほとんどです。ロボット等を使って単純な作業の自動化から始まり、生産ラインすべてを自動化するお話まで幅広くあります。
その一方で業務の自動化というものも提案していきたいとは思っています。工場内の生産ラインの自動化はここ10年ぐらいで進んできていますが、作業においてはまだまだ手書きの資料を使っていたり、FAXで図面をやり取りしているのが一般的ですから。
RPAは最近になって三栄商事でも少しずつ取り入れたレベルなので、お客様に提案していくのはこれからです。
当然商社としてお客様に常に新しい情報を提供していく必要があるので、RPAやAI、IoTに関しては事業内容としてこれから積極的に取り組んでいかなければならない領域ですので、その前段階のサポートをしっかりとしていくのが今の取り組みです。
お客様に適正なハードを提供していくことはもちろん、システムやサービス・コンサルティングにも力を入れていき、お客様の満足度をあげていきたいと思っています。
2013年以降はM&Aなどのご縁も頂き、グループ会社を増やしています。
最初にM&Aをしたのは「浜名エンジニアリング株式会社」という自動搬送装置のシステムメーカーでした。
M&Aにより積極的に企業買収を進めるわけではないのですが、取引をしていく過程の中で、一緒にやりましょうという声をいただくことが増えてきました。
三栄商事としても色々な企業様と一緒になることで事業領域を広げることができるので、ご縁があれば前向きに取り組みたい分野の一つでもあります。
ー取引先様という立場からグループ会社になるというのも素晴らしい枠組みですね。
双方の信頼関係がないとできないことなので御社がいかにパートナー様を大切にしているか伝わってきます。
ー後藤社長のご経歴を教えてください。
大学卒業後アメリカに留学し、その後オークマ株式会社及びトヨタ自動車株式会社を経て、三栄商事に入社をしました。
ー家業を継ぐという意識などはいつ頃からありましたか?
元々、父からはそういったことを言われたことがなかったんですが、祖母からは「あなたが3代目だからね」と言われ続けていましたので、ずっと継ぐということは意識していました。
社会人になるまでは、三栄商事の事業内容や会社の規模などは、ほとんど理解していませんでしたが、オークマ株式会社に入社後、三栄商事の事業内容や会社について興味を持つようになり少しずつ知見を広めていきました。
元々、オークマ株式会社の後に三栄商事に入社をしようと思っていましたが、トヨタ自動車株式会社から英語の話せる体育会系の人間を探しているというお話を頂戴して、日本のTOP企業に関わる機会なんて滅多にないなと感じ、2005年1月~9月までの9ヶ月間勉強をさせて頂くという思いでトヨタ自動車株式会社にお世話になりました。
トヨタ自動車株式会社での9ヶ月間を経て、正式に役員として三栄商事に入社し、現在は代表という仕事をさせて頂いています。
ー社長就任後に苦労されたことはありましたか?
自分が苦労だと思えばあるんでしょうが、どちらかというと自分が決めたことをすぐ実行に移せるというメリットの方が大きいかなと思っています。
また、就任当初は自分の発言がこんなに影響があるということを認識していなかったので、少し驚きました。
社員からすると後藤正幸という1人の人間としてではなく、一企業の社長の発言という捉え方になるので、会議などでも自分の言葉の重みを考えて発言するようになりました。
スムーズに就任できた理由の一つに、今の組織体制も影響していると思います。若手会議と称して、入社当初からコミュニケーションをとっていたメンバーが全社の7割ぐらいにあたり、お互いの理解度も非常に高いです。
何も知らない人がいきなり就任したわけではないので、そこも大きいと思います。
ー御社の国内の立ち位置や強みを教えていただけますか?
三栄商事は地域密着型で愛知県、三重県、岐阜県、静岡県の東海4県で商売をさせていただいています。
そのお客様が海外に工場を出すことになった際に、中国とタイに関しては三栄商事グループの現地法人があるので、現地でのフォローも含めてやらせていただいています。
ー地域密着で深くご商売をされているのですね。
海外に進出したきっかけは何だったんでしょうか?
先代の社長(現会長)が、当時オイルショックの影響で日本の景気はあまり良くなかった中、好調な企業が沢山あるアメリカに目を付けて、アメリカの中古機業者を日本に招待し、日本の工場の設備を丸ごと購入してもらうという仕事をしたんです。
英語の話せる人間がそれほど多くない時代でしたので、英語を話せる父が海外の仕事を取りまとめ、商売を始めたことが海外に出るひとつのきっかけになったんじゃないかなと思います。
次に強みですね、強みというとなかなか差別化がしにくい業界というのが本音ですね。
まず、業界図から説明させて頂くと私たちの業界には『商権』というものがございます。
商権というのは販売ルートが一度つくと、今後もそのルートから仕入れなければいけないという決まり、販売店の権利です。
70年前から継続してこのルールに守られ、販売チャネルが取られてしまうということが無い反面、このルールがあるからこそ新しい取り組みを始めたり、販売チャネルを拡大することが難しい業界でもあります。
これを一般消費者に置き換えると、例えば一般消費者に置き換えたときに、初めにAという家電量販店で買ったら、次にBという家電量販店では買えないのでAというお店に行ってくださいという流れです。
昔は情報も少なかったので良かったかもしれませんが、どこでもだれでも情報にアクセスできる時代にいつまでも昔のルールを踏襲していくのは、あるべき姿ではないと思っています。
ーそうですね!その事業の供給量が安定フェーズに入った時は競合がいた方が業界的には活性化しますよね。
はい、そうですね。今後はそんな時代になっていくのではないかと感じています。
そんな変化の中で勝ち残っていくために三栄商事の強みにしていきたいのは「提案力」です。
今強みは何ですか?と聞かれたら私の答えは「お客様とのパイプの数」・「財務基盤」などの目に見えるモノになりますが、今後は「提案力」という目には見えないモノも加えていきたいです。
ー「提案力」とは具体的にいうとどんなことでしょうか?
「提案力」それはお客様との関係構築に深く関わります。
今までは要望されたことをこなすことがお客様の満足につながっていましたが、これからの時代はお客様に要望されたことはもちろん、導入したあとのフォローや関わりに大きな意味があると思います。
お客様の期待に100%で返すのではなく、150%、200%で返すことが非常に重要です。
そんなお客様にとってプラスワンで提案できる組織に変化していくために私が就任してほどなく、「SAN-EIわくわくチャレンジ」という組織向上プロジェクトも立ち上げ、人材の成長できる環境づくりにも力をいれています。
ー素敵なネーミングですね!「SAN-EIわくわくチャレンジ」ついて、実際始めてみた感想や効果など教えていただけますか?
「SAN-EIわくわくチャレンジ」の浸透活動の一つに「わくわく教室」があります。「わくわく教室」はテーマを決めて、私と社員たちとで直接ディスカッションをできる時間にしているんですが、始めた当初はあまり賛同が得られず、何を話しても響いていないなと感じていましたし、自分はいったい何をしているんだろうと思っていました。
開催すれば社員も参加はしてくれていましたが、何か目的意識や得られるものが持ちにくい状況でした。
1年ほど継続して2020年の2、3月くらいから徐々に何か効果を感じられるようになりましたね。
ー1年ほど経過してから効果を感じられるようになったきっかけなどはございましたか?
一概には言えませんが、コロナによる影響も大きいですね。
コロナの影響で時期的にコミュニケーションが希薄になりつつあったので、ZOOMでのオンライン開催をしようということになりました。
オンラインだと今まで接する機会のなかった社員の話も聞けるというところで面白さを見つけてもらえたのかなと思っています。
元々は全てリアルで開催していたこともあり、参加できないメンバーもおりましたが、オンラインだと参加率も上がり、効率もよくなりました。
オンラインで開催すると営業所からや、女性社員も気軽に参加しやすいことが利点だと思います。
さらに話し合った内容をブログとして残すことにより、社内のナレッジ記録として誰でも閲覧できる環境を実現しています。
ー「わくわく教室」のテーマなどはどなたが考えているのでしょうか。
三栄商事には行動理念が8項目あって、これを2ヶ月に1つずつ取り上げています。
例えばその中のひとつに「提案営業でお客様を感動させよう」という理念があるのですが、提案営業でお客様を感動させた経験がある!とか、提案営業でこんなことをトライしようと考えている!といったことを参加者に話してもらい、私と対話をしながら他の参加者にも話を振っていくという形式です。それを月に2回、30分ずつ行っています。
毎月欠かさず実施して、少しずつですが効果が見えるようになり、初めて「継続は力なり」という言葉の意味を実感しましたね。
ーZOOMでの開催以外で工夫した取り組みはありますか?
内定者に「わくわく教室」を手伝ってもらうことで企業理解を促進しています。
具体的には、進行の補助やブログへの文字起こしをアルバイトとしてお願いしています。
彼らが春に入社する時には「わくわく教室」を経験しているので、プラスになるんじゃないかと思います。
あとは「わくわくアワード」という投票制度も取り組んでいます。
グッドアクションだと思う社員の行動事例を毎月10~20件ほど挙げてもらい、投票数の多かったものに対して、クオカードなどの景品を渡しています。
ーそういった取り組みで新しいビジョンや取り組みが生まれるのは良いですね。
しかも社員が率先してやりそうな仕組みで楽しそうです。
ほかには「SAN-EIわくわくチャレンジ」と同時期に社員や社員の家族向け「社内報」も始めました。
日頃から社員が元気に働けているのは、社員のご家族や周囲の方々の支えがあってこそだと思い、そのつながりを大切にしたいという思いで2年ほど前から社内報制作を始めています。会社の方向性や社長の考え、どんな社員と一緒に働いているのかを知ってもらい、ご家庭でも応援してもらいたいと考えています。
企画としてはくだけたものも多く、社内の○○ランキングや社員インタビューなどを掲載しています。
ー素晴らしいですね。社員の家族にまで気を配られている姿勢が素敵です。
後藤社長によるブログ「三栄商事 後藤正幸社長のわくわく教室」>>
ーM&A(事業継承)を比較的早くからされていますが、何か戦略的な考えがあったんですか?
戦略的というよりはご縁になりますね。
先ほどお話をした浜名エンジニアリング株式会社の社長さんとは10年ほど仲良くさせていただいていたんですが、「我々のような商社には技術力がないため、今後生き残るために技術力を身につけていきたいのですが、どうしたらいいでしょうか?」という相談をさせていただいたことがありました。
その時に、浜名エンジニアリング株式会社には技術力はあるが新しいものを取り入れる環境がないということを伺い、お互い協力しあえばよりいい形が生まれるのではないかということで、お互いのニーズが合致したんです。それから話が前向きに進み、M&Aを承諾いただけることになりました。
人の縁というのはどこに何があるかわからないですよね。
ーM&Aをされた後に苦労されたことや課題はありますか?
苦労というか、これまでの文化の違いを合わせていくのは時間がかかりますね。
まずはお互いの会社で独立して仕事が出来ること、そして良い部分は取り入れ、悪い部分は変えていく。時間をかけて地道に意見交換をして、一つの目標を追うことのできる関係を築いていきたいと思います。
ー三栄商事さんの提供しているブルーアシスタントとはどういったものでしょうか?
モノづくりを見える化しているものが図面なんです。現状はモノづくりが属人化してきてしまい図面に記載されていない情報も沢山あるのですが、基本的に図面設計から全てが始まります。その図面を英語に訳すとブループリント、そこから名前を取ってブルーアシスタントにしました。
多くの企業が図面を会社の財産として持っているのにも関わらず、財産として活用できていないことが多いので、出来るだけ簡単に図面を検索出来れば活用につながっていくのではないかと思っております。
簡単にいうと図面の検索サービスで、社内にある図面が「名前」や「型番」等のキーワードが分からず検索できないときに、「形」という情報をもとに図面を検索し、過去の図面を探し出せるというサービスです。
今後の目標は図面に記載されている全ての情報(寸法・精度等)も読み込んでいけるようにしていきたいと思っています。
現状は、図面を書いたベテランの方が現役で働いているので検索できないことが少なく、ニーズはそれほど高くはないのですが、ベテランの方の世代交代が起きた後はブルーアシスタントニーズが爆発的に上がると考えています。
ー今後のビジネス展開や事業モデルを教えていただけますか?
モノ自体はなくならないと思いますが、商権というルールや考え方がなくなった場合はどうせ同じモノを購入するなら「三栄商事から買いたい」と思ってもらえる会社でありたいと思います。
今まではモノに多少の利益を上乗せする販売方法ですが、今後はモノだけでなく取引する過程で三栄商事の価値を感じてもらえるサービスが必要だと感じています。
例えばAIやIoTなどのDX(デジタルトランスフォーメーション)提案をしていくことやその延長でコストの削減、事業拡大の提案などがいい例です。
また、お客様の「こういうことをしてみたい」「こんなことで困っている」というニーズに対して、100点満点の提案はできていないので、世の中にある様々なソリューションをできるだけたくさん集めて、企業の課題をしっかり解決していきたいと思います。
お客様から現場の課題・事実を隅から隅までヒアリングし、お客様以上に私たちが問題を把握することができれば、どんなお客様に対しても新しいサービスを作って提供・改善することができます。
今後は三栄商事独自の付加価値をどれだけ付けていけるかが、商社として生き残れるかどうかの瀬戸際だと思うので、そこをとにかく鍛えていきたいです。
そして、「新たな道を創造する」というミッションを実現するために、仕入先様と協力し、お客様に対して常に最先端な商材を提供し続けていきたいと思います。
会社内部に関しては「自分で考えて決めて行動できる社員の育成」を社員人事理念として掲げているので、「どうすればいいですか?」から「こう考えていますがいかがですか?」という社員を増やしていきたいです。
お客様から言われたことをそのまま仕入先様に伝えるのか?お客様から言われたことを自分なりに考えた上で新しい提案を行なっていくのか?その違いをしっかりと理解して行動や提案のできる社員育成をしたいと思います。
ー最後に全国の老舗オーナーの皆様にメッセージをお願いします。
今まで経営理念やビジョンに対して、「そんなものがあってもなくても、ちゃんと仕事ができていれば関係ない」と軽く考えていた時期がありました。
しかしあるタイミングから、経営理念を重んじ、ビジョンをしっかりと掲げ、「SAN-EIわくわくチャレンジ」のような取り組みをする意思決定をいたしました。
経営理念を自分の言葉で落とし込み、社員と一丸となって歩むビジョンはとてもやりがいのあるチャレンジだと感じています。
また、そういった取り組みは瞬間的にするのではなく、継続して行うことが非常に重要ですので、結果がすぐに出なくてもとにかく続けていくことが大切だと思います。
三栄商事は今までの風習から脱却する新しい組織を目指し、様々な取り組みをした結果、約2年で会社は良い方向に向けてのスタート地点に立つことが出来ました。
ぜひ、皆様にもチャレンジしていただきたいと思います。
最後に、老舗企業だから変化が難しいということはありません。
事業者として基本的なことをひたすら地道にやり続け、時代とともに変化することが会社を変える唯一の方法であると思いますので、そういった精神で歩んでいくことをお勧めします。
後藤 正幸
三栄商事株式会社 代表取締役
慶應義塾大学卒業後、コロラド州立大学のインターナショナルアフェアーズへ進学。
卒業後はオークマ、トヨタを経て、2005年に三栄商事へ入社。
2013年、代表取締役社長へ就任。
「新たな道を創造する」をミッションに、独自のプロジェクト「SAN-EIわくわくチャレンジ」を立ち上げ、社員の可能性を広げる取り組みに尽力している。
↓三栄商事公式ホームページはこちら↓