「日本は老舗企業大国だ」そんな話を耳にしたことはありますか。帝国データバンクの調査によると、日本には創業100年以上の老舗企業が3万3259社(2019年時点)、この数は、世界で一番多いとされています。
日本に老舗企業が多いと感じていなかったという人も、お菓子や生活用品など、ふと身近なものに目をやったとき、子供の頃から知っているというものが必ず1つはあると思います。
その、「子供の頃から知っているモノ」を造っているメーカーは、100年、200年もの歴史を刻む老舗企業だった、というのはよくある話。日本人にとってはあまりにも身近すぎて気が付かないことが、時として世界から驚かれる事実となっていることがあるのです。
日本にはなぜ、ここまで老舗企業が多いのでしょうか。
今回は、その理由に迫り、日本企業の仕組みについて理解を深めていきたいと思います。
日本は短い期間で利益を大きくするよりも、長く存続することに価値をおいている企業が多いとされています。
時代が変化したら事業を終わりにし、また新たなことを始めるという会社より、一つの事業を時代の流れに合わせて成長させていき、長く安定した経営をするといった会社の方が信頼できると感じる人もいるでしょう。
企業が100年以上の歴史を刻む中、日本は戦争や不況、自然災害と多くの困難に見舞われてきました。
老舗企業が、それらの壁を幾度となく乗り越え、今日に至るというのは日本人としても世界に誇るべきことだと思います。
日経BPコンサルティングによる、「創業100年以上と200年以上の世界長寿企業ランキング」では、100年以上、200年以上ともに企業数は日本が1位となりました。
比率でいうと、【創業100年以上】1位 日本41.3%、2位 アメリカ 24.4%、3位 スウェーデン 17.5% 以下省略 【創業200年以上】1位 日本 65.0%、2位 アメリカ 11.6%、3位 ドイツ 9.8% 以下省略 、世界一の老舗大国であることがわかります。
日本に老舗企業が多い理由は、長く存続することに価値をおく企業方針と密接に関係していますが、それだけに限らず、日本人の働き方も大きく影響しています。
転職という概念を一つおいてみましょう。
日本では、頻繁に転職をしている人に対して、職が定まらない、転々としている、とあまり良い印象を抱かない場合があります。
対して、欧米諸国では時代の変化はもちろん、自らのスキルやライフスタイル、職場環境が変われば転職をすることが当然とされています。
そのため、転職が多いからといってマイナスな感情を抱くことはありません。
あまり良い印象を抱かない人もいるかもしれませんが、日本には年功序列という考えがあります。
勤続年数に応じて昇給や役職を与えられるというシステムを取り入れる企業は少なくありません。
老舗企業では、職人のように長年1つのもので腕を磨き続けてきた人は、重要な存在として定年をすぎても働き続ける人もいます。
欧米では、キャリアに見合った報酬をもらうことが当然とされています。
勤務年数は関係なく、提示された条件が良ければ競合会社であっても転職をしますし、企業は能力が高ければ長く働いていなくても高い給与を支払います。
なぜ、このように働き方の違いが生じるのでしょうか。
その理由の1つに、採用方法の違いがあると考えられます。
欧米の企業では即戦力を求め人材を採用します。スキルや能力を重視し、すぐ仕事に活かそうとするのが一般的でしょう。
対して日本企業は、会社の方針に適した人を採用し、研修を行い、そこから各部署に割り振っていくような採用のあり方が一般的です。
新卒採用を例に考えてみましょう。日本ではまず企業が必要とする一定人数を採用、個人のスキルや能力は後に考慮するとして、まずは足並み揃えて1から研修を行ないます。
会社に適した働き方を全員で理解し、同じスタートラインに立った時点で、改めて個々の能力を発揮していくことになります。
対して、欧米では、新卒を採用するとしても、まずは個人のスキルや能力を重視、大学で専攻した専門分野をすぐに実務に活かそうとします。
極端にいってしまえば、スキルも能力も違う人間が同じ研修を受けても意味がないと考えるということです。
欧米のビジネススタイルは個人主義であるのに対して、日本は団体主義。
会社の意向に沿って働いてくれる人が、長く勤めるということで団結力が高まり、企業が長年続いていくことに繋がっていきます。
日本に老舗企業が多い理由は、人とのつながりを重視する国民性にもあります。
今や100年以上の歴史を持つ老舗企業もはじめは町工場や商店街のお菓子屋さん、当初は家族経営であったり、片手に収まるような人数で家族のように寝起きをともにして働いていた、そんな先代のエピソードがあったりするものです。
老舗企業と聞くと何となく人情深い企業であるような気がする、と感じる人もいるのではないでしょうか。
人との関わりを重要とする営業職に視点をおいても、日本は特有であることがわかります。アメリカを例に考えてみましょう。
アメリカ企業は、人ではなくモノをみて判断をします。業績が伸びることがデータで証明できれば、営業方法に関係なくモノは売れます。営業マンがどんなにコミュニケーション能力が高く、商品をPRする力があったとしても、そのモノが必要とされなければ、購入を検討することはありません。
話の途中であっても、不要なものであれば断られてしまうこともありますし、そもそも営業を受けない場合もあります。
対して日本では、どんなに良いモノでも信頼のおける営業マンからではないと買いません。
付き合いの長い会社であれば、今必要のないものでも、今後使う可能性があるか考えてみようという判断となり、長くコミュニケーションを続けていくうちに購入に至るというケースもあります。
それ故、日本では長期的な提案が生まれやすい。つまり、10年後、20年後のプランを立てながら付き合いを続けていくということができるのです。
企業同士が長い目で見て付き合いを続けていくことは、会社が長く続く秘訣となっているといえるでしょう。
帝国データバンクの老舗企業実態調査(2019年)の統計データをもとにすると、製造業の企業数は8,344社と最も多くなっています。
“長年、人々に愛されるモノ造り”を中心に老舗企業が多いという社会構造にも、人とのつながりを大切にする日本人の性質が深く関係しているのではないでしょうか。
日本は、世界に誇れる老舗企業大国だ、という事実は、私達日本人にとって最大の強みでありますが、それと同時に大きな課題も抱えています。
世界的にみた経済情勢の中では「日本企業は団結力があり長寿だ。しかし、侵出範囲が国内で留まってしまう企業が多い」との声も耳にします。
現に諸外国と比較し、日本は中小企業が多く、国内を主な市場としています。日本の外資系企業数は年々増加をし、若者の注目は、グローバルな職場環境やIT業界といったデジタル市場に集まっています。
長年続いた伝統の力を持つ日本の老舗企業は、最新、最先端を取り入れることで生き残ろうとする欧米企業に対し、どのように対抗していくのか。若い力をいかに取り込み次の世代へとつなげていくのか。
それは今後、最大の課題となるでしょう。