国によって同族経営の印象は様々ですが、皆さんはどの様な印象をお持ちでしょうか?
今や日本の全上場企業の50%以上が同族企業とされ、日本は世界でも屈指の同族企業大国となっており(ファミリービジネス白書2018)、トヨタ自動車、サントリー、キッコーマン、キヤノン、パナソニックなどの大手企業が同族の後継者で経営が行われている事も有名です。
同族企業といえば華やかな印象の方、二番煎じだといった印象をお持ちの方など様々な捉え方をされているかと思います。
世界的にも長寿企業が多いと注目されている日本において、企業主の高齢化や後継者不足で廃業してしまう企業の悩みもありますが、そんな中で老舗として先代から継承した人にもまた多くの悩みや葛藤が存在します。
今回はそんな継承者の悩みや葛藤をご紹介いたします。
一般的にファミリービジネスの特徴としては経営の意思決定が早く、求心力がある事をメリットとして挙げられますが、老舗企業などで同族の継承者が舵を取る場合、のしかかる責任は「企業の存続」となってしまう事で、いくつかのデメリットが生じ、後継者の悩みや葛藤の種となるのです。
同族企業に限られたことではありませんが、自身のスキル不足による不安は、後継者にはまた違った形の悩みとなる面があります。
なぜなら、前経営者が親族であることで感じるプレッシャーがとても大きく、先に述べた「会社の存続」という優先度が高いからです。
中小企業の多くが同族経営である日本では、そのほとんどが地域に根差している為、取引先や周りにも周知されている分、「泥を塗ってはいけない」という感情から悩みが大きくなってしまいます。
同族企業を継承するのであれば避けては通れない道ではありますが、やはり非同族企業と違い、このような面でも後継者が感じる悩みは大きくなってしまいます。
ちなみに、私の友人も親から会社を引き継ぎ現在三代目となっていますが、先代から長く付き合っている友人や関係先との交流をしなければならないことで「睡眠と家族の時間をしっかりとれないこと」が悩みの種のようです。
関係先なども大事な取引相手なので仕方ないですが、家庭の時間などのように、職務面以外での悩みは他にも抱えている方がいらっしゃるかもしれませんね。
後継者にとって必ず直面する葛藤として未知の分野への参入・事業展開などがあります。
先代が創設からこれまで積み上げてきた経験や実績を元に経営の舵を取ろうにもこれまでと、これからとでは激しい市場変化の中、やり方を変えなければならない場合があるからです。
上の図のように、中小企業庁の「中小企業の事業承継に関するアンケート調査」では、年齢が若いほど事業の拡大をしたいと考えており、高齢になるにつれて現状維持の数も増えています。
若くして継承した社長の、現代の市場変化に対して新しい価値観でアプローチしたいという考えと、企業理念やこれまでの成功を経験して得た先代の考えとでは一致しない事がアンケートの結果上も考えられます。
また、時として先代のやり方を否定して推し進めなければならない時があるため、同族経営だからこそ、親族である前経営者がとる立ち位置によっては、否定をしたことで家族の仲に問題が生じてしまい、親と子との間で確執が生まれた結果、後継者にとって大きな悩みの種となってしまう事も多く見られます。
ちなみに意見の衝突する背景として、市場変化に大きな問題点があるのではと私は考えています。
それは、高度経済成長期に何もない状況から契機をみつけ業績を築き上げた事で現状維持を考えている前経営者側と、現代市場から経営を行い、これから業績を上げるために様々な分野へ事業展開を図りたい後継者とでは、スタート地点で考えが違ってしまうからです。
親子間での承継は良好に進んでも、会社に長く務めてきた従業員や役員との間に確執が生まれる事も多く見られます。
これまで長く行ってきた事から変化をする場合には同じく先代とともに戦ってきた古参社員達と意見が割れてしまう例も少なくありません。
これまで会社へ尽くし実績を積んだ古参社員にはそれなりのスキルもあり、また、自身の職務など今後についても考える為、どうしても後継者へは厳しい意見もでてしまいます
さらに、新人まで上司へならえという体制になってしまうと、後継者としてどのように歩み寄るべきか難しい問題となってしまい、指示をしている以上聞き入れてくれてはいますが、肝心な信頼構築の面で上手くいかず悩んでしまう後継者がとても多いです。
特に多いのが先代から引継ぎにおいて、大きなプレッシャーからなんでもオールマイティーにこなさなければならないと思い込んでしまう事です。
途中で入社した社長後継者が、実際は分からないことが多いのにリーダーシップを先行してしまう事で、先に紹介した従業員との確執にも繋がってしまう場合があります。
先代に劣らず、何か実績を作らないといけないという焦りから社内の人間関係に溝ができてしまう事は避けなければなりませんが、実際にそのような状態になってしまった後継者は、従業員との関わり方、つまり人間関係に多くのストレスを感じ業務を前に進められない為、悩んでしまう要因となっています。
長く務めている従業員も従い継承者として回さなければならないので、これまで経験を積んできた従業員から信頼を勝ち取るため、完璧主義を捨てて、互いに協力し目的を達成する事を積み重ねれば、信頼関係が構築できるかもしれません。
基本的に会社を継承する時には、少なくとも継承前に5年~10年の準備期間が必要だと考えられていますが、必ずしも十分な準備期間を経て継承できるとは限りません。
例えば、先代の体調面などに問題があり退かなければならない場合や、後継者の育成プログラム自体が不足していて、準備期間はあっても経営の自信が持てない場合です。
自信=経験ともよく言われますが、老舗企業などの場合は、創設からある経営理念といった価値観の継承も必要となるのでそれができず、右も左も分からないまま舵をきらないといけないので、苦労と多くの悩みを抱えてしまう可能性は高いです。
また、そんな状態ではこれまで長く務めてきた従業員も同時に辞職してしまわないかという不安も抱えながら問題を解決しなければならないので、ストレスもかかってしまいます。(『日経トップリーダー』2011 年 3 月号,p.36)。
同族企業の後継者が抱える悩みや葛藤について、ご紹介しました。
皆さんやその周りでも、悩みを抱えた経験のある方はいらっしゃいますでしょうか?
長寿企業の多い日本ですが、実はここ数年は企業も後継者不足に陥り、同族企業の継承も年々低下傾向で推移しています。(帝国データバンク全国・後継者不在企業動向調査 2019年)
同族企業に限った事ではありませんが、特に引き継ぐ準備期間へどのように取り組んだかが後の結果に大きな影響を与えるケースがとても多いように感じます。
幼い頃から家庭内で起業思想を親子で話せるような環境があったのか、また、準備期間に使用する育成プログラムがしっかりできていたのか、創立メンバーや古参社員らと息子がコミュニケーションをとれるような環境を整えていたのか、そういったことを一つひとつ着実に積み上げていくことが重要となります。