日本企業の約97%がファミリービジネスです。
家族経営のファミリービジネスは時代遅れな印象もありますが、海外では優れた経営形態として評価されています。
実際に他の企業と比べて、ファミリービジネス企業は、業績や長寿性に優れています。
しかしその一方で、後継者問題やガバナンスの欠如といった、ファミリービジネスならではの問題も抱えているのです。
そこで今回は、ファミリービジネスの経営戦略について解説しましょう。
「ファミリービジネス」とは、同族の者が経営を担っている、あるいは株式を保有している経営形態のことです。
なお、株式の保有は非公開企業の場合は50%以上、公開企業の場合は32%以上が条件となります。
「同族経営」とも称されるファミリービジネスは、親子、夫婦、兄弟姉妹など家族が、経営や所有に強い影響力を持っています。
日本では、大手企業から個人商店まで、さまざまなファミリービジネス企業が存在しており、企業数の約97%はファミリービジネスです。
有名なファミリービジネス企業は、トヨタ自動車、ユニクロ、サントリーなどがあります。
大手企業の場合、商品やサービスに特化した業界NO.1企業や、伝統を長きに渡って伝えてきたような、ブランド力がある企業が多いのが特徴です。
また、収益や経営の面でも優れた企業が多く、100年以上続く長寿企業の9割がファミリービジネス企業となっています。
近年、経営学の研究で、ファミリービジネスは長寿企業が多いこと、そして企業パフォーマンスが高いことが明らかになりました。
なぜ、ファミリービジネスはそのような結果を出せるのでしょうか?
その秘密は、「いかに生き残るか」という企業戦略がファミリービジネスにマッチしているからです。
一般的な企業と、ファミリービジネス企業の大きな違いは、会社の「経営」と株式などの「所有」が一体化していることです。
一般的な企業では、株式が分散所有されています。
そのため、経営者、役員、株主といったさまざまな人が、意思決定に関与するため、決断に時間がかかってしまうのです。
しかし、家族が経営者と所有者であるファミリービジネス企業では、他者の顔色を伺うことなく決断することができます。
また、意思決定の権限が、経営者、または同族に一点集中していることで、素早く決断を下すことも可能です。
重要な経営判断が必要なときに、迅速な意思決定を行えることが、ファミリービジネスの強みと言えるでしょう。
経営理念とは、企業の存在意義や使命を表す価値観のことで、組織の方向性を決めるものです。
一般的な企業では、株主や上役が変わると経営方針も変わることがあり、従業員や顧客などが混乱する場合もあります。
しかし、トップ層が同族であるファミリービジネスでは、創業者の経営精神が組織に浸透しやすく、理念に沿った経営方針を維持することができるのです。
さらに経営理念が共有されていれば、理念で通じ合う人材や企業、顧客と経営陣が繋がりやすくなります。
つまり、一貫した経営方針が長期的な信頼を生み、安定した経営が行えるのです。
10年、30年、100年かかることでも取り組むことができるのが、ファミリービジネスの強みです。
一般的な企業では、株主などからの意向もあり、短期間で結果を出すことを求められます。
他にも経営者の交代によって、長期的な計画に取り組めないこともあるかも知れません。
しかし、経営形態が異なるファミリービジネスでは、そのような問題もクリアすることができるのです。
ファミリービジネス企業が、長期的な視点で経営に取り組める理由は3つあります。
1つ目は、「企業経営と所有を同族が行っているため経営方針がブレないこと」です。
2つ目は、「一般的な企業に比べて、経営者の在位期間が長いこと」があげられます。
長期にわたり企業のトップとして決断ができるのなら、創造的なチャレンジも可能になるでしょう。
3つ目は、「何代にもわたって存在し続けることを、企業の目的としていること」です。多くのファミリービジネス企業は、短期間で大きく成長しようとは考えず、身の丈にあった経営を行っています。
このような理由から、ファミリービジネス企業は長期的な事業計画にも、一貫して取り組むことができるのです。
そして、長期的な視点で経営できることが、結果的に企業の持続的な成長に繋がっています。
どのような企業にも問題が起こりますが、特にファミリービジネスが難しいのは、家族の情がからむことで問題が複雑化することです。
ではファミリービジネスは経営戦略として、どのように情のリスクに対処しているのでしょうか?
ファミリービジネス最大のリスクが後継者の問題です。
ファミリービジネスでは、家族間で事業継承するため、「後継ぎがいない」「後継者の座を巡って親族間で争う」「不適切な人材が後継者のポジションに付く」などの問題が起こることがあります。
後継者の問題は、ファミリービジネス企業の存続に関わる問題です。後継者の育成に早くから取り組んだり、一般的な企業より事業継承に時間をかけることでリスク回避しています。
後継者がいない場合は、能力のある人を「養子に迎える」、婚姻によって「婿養子をとる」という決断を行えば、問題を解決することが可能です。古いやり方とも言えますが、企業を持続させるための経営戦略と考えられるでしょう。
社員格差とは、「家族を優遇する偏った人事」「問題を起こした家族社員への甘い処置」「必要なスキルを持たない家族を役職に付ける」など、家族とそれ以外の社員の間で、待遇に差があることです。
この問題はファミリービジネスでは家族が経営や所有に関わっているために、起こりやすいと言えるでしょう。当然ですが、このような問題があると社員の信頼を失いかねません。
ファミリービジネス企業では、経営者の家族であっても見習いからキャリアを始める、他社に修行に行くなどの「仕組み」を作ることで対処しています。
つまり、採用や査定の基準、プロセスを透明化して、従業員も納得できるようにしているのです。
また、家族が企業のトップ層にいるために、家族間の争いが起きると経営に影響するという問題もあります。
このような問題を回避するために、「家訓」や「家法」で対処法を代々受け継いでいくなど、家族、親族間の争いを解決する仕組みを作っているのです。
さらにファミリービジネスの欠点を上げるのなら、それはガバナンスの欠如です。ガバナンスとは、管理体制のことで、法や規則を守っているかを確認するシステムです。
ファミリービジネスでは、パワハラや不当解雇など、違法行為があっても見逃されやすいことが問題となっています。これは、トップの誤った判断を修正できる人材がいないために起こる問題です。
ファミリービジネス企業では回避策として、社外組織を作る、外部の専門家に委託するなど対策をとっていますが、そのようなことができるのは大手企業に限られます。
では、その他のファミリービジネス企業はどう対処しているのでしょうか。
社外組織を作ったり外部に委託する余裕がない企業は、従業員や顧客、取引先などの利害関係者と信頼関係を築くことで対処しています。
例えば、従業員に後継者の育成に関わってもらい、トップに意見が言える人材を確保したり、家族以外の人を経営者の後継人として指名するのです。
そのほかにボランティア活動に企業として取り組むなど、地域社会と繋がることで問題の解決を図っています。
このようにファミリービジネスは、地域社会と共存する、家訓を作るなど、さまざまなアイデアでリスクに対処しているのです。それが結果的に、企業の持続的な成長に大きく関与することになっています。
今回はファミリービジネスの経営戦略について解説しました。ファミリービジネスでは、経営と所有を一体化するという経営戦略によって、「持続的な成長」を可能にしています。
また、従業員や顧客、地域社会といった利害関係者を幅広くケアすることで、自社のブランド力を高め、企業の持続的な成長に繋げているのです。
これらは、伝統的なファミリービジネスのスタイルとも言えますが、社会と共生する経営の在り方からは、学ぶべきことがあるのではないでしょうか。