長かった安倍政権が終焉を迎えて、菅政権が誕生しました。
菅首相は、安倍政権の下で日本の成長戦略を立案し推進していた未来投資会議を廃止し、新たに「成長戦略会議」を設置。
成長戦略会議は、日本国経済の持続的な成長を達成するために、成長戦略の具体化を推進する役割を菅政権の下で担うことになります。
民間から著名な有識者が選ばれており、日本商工会議所の三村明夫会頭などを筆頭に、日本の経済の中核を担う人物が名を連ねている中、異彩を放っているのが「デービットアトキンソン氏」です。
菅首相と懇意にしていると報じられており、インバウンド業界や中小企業の生産性向上のために尽力してきた人物ですが、あまりよく知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回から全5回に渡って、菅政権の成長戦略会議メンバーであるデービットアトキンソン氏について詳しく掘り下げていこうと思います。
第一回に引き続き、今回は世界的にも以上とされている「日本企業の生産性の低さ」について氏の主張を見ていきたいと思います。
氏によると生産性を決める要素は、主に以の5つの要素です。
上記の1と2は、国全体の生産性に大きく影響するものであり、他の3つは労働生産性体に対して影響を与えるといわれています。
生産性という聞きなじみのない言葉ですが、 あまり詳しくない方でも「少子高齢化」を向いている日本国においては、1と2が大きく低下していることは簡単に予測することができることでしょう。
生産年齢人口が年々低下していくことは、おそらく日本では今後何十年も続くことであり、大きなマイナスの影響が国全体の生産性に及び続けます。
加えて日本国は、 他国と比較しても圧倒的に中小企業の数が多いという特徴を持った国であり、企業の平均規模というのも他国と比べると小さいものが多いと言わざるを得ないでしょう。
さらにイノベーションという点でも、現在政府がDXを推進しているように、他国と比べて進んでいるとは言えません。
こういった要素を鑑みると、日本国の生産性が良くなっていく要素は見受けることができず、難しい状況が続くと予測することができると氏は語っています。
少子高齢化による労働人口の減少を考慮すると、 日本が生産性向上を図るために取れる手段はひとつしかないと氏は語っています。
それは「労働生産性を高めること」です。
人口が少なくなるにつれて、量で質をカバーすると言った人海戦術を取ることは不可能になります。
闇雲に対策を行なうような時間は残されてなく、労働生産性を高めるには何をすべきなのかを明確にしなければならないでしょう。
まず大前提として労働生産性における最も重要な要素は「 企業の平均社員数」だといわれています。
企業規模が大きくなれば大きくなるほど、労働生産性が高くなることは経済学の視点からも指摘されており、世界中で共通理解になっているものです。
そのため個人事業主よりも中小企業の方が、中小企業よりも誰もが知る大企業の方が生産性が高くなるといえるでしょう。
このような視点から考えると、日本の中小企業の多さというのは生産性が低くなるという点で大きな問題となり得ます。
ここまで解説してきたように、大企業であればあるほど生産性が高くなるということは、 日本の生産性が低くなっている原因は中小企業である、と氏は指摘しています。
そこでまずはどういった企業が中小企業であるのかという、前提を見ていきましょう。
日本において、中小企業は1999年に制定された中小企業基本法によって以下のように定義されています。
業種 | 中小企業に該当するする資本金の額 | 中小企業に該当する従業員の数 | 小規模企業に該当する従業員の数 |
製造業その他 | 3億円以下 | 300人以下 | 20人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 | 5人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | 5人以下 |
上記の表に照らし合わせて、日本企業の中小企業がどのくらいあるのかというと「約359万社」がこれに該当する企業でした。
一方で大企業とカテゴライズされている企業は、1.1万社と圧倒的な差があります。
企業規模が生産性の高さを決定づけると考えると、日本の国が圧倒的に生産性が低い理由が分かるのではないでしょうか。
これを読んでいる読者の方の中では、以下のような考えを持っている方も多いのではないでしょうか。
しかし残念ながらこういった意見は、あるデータを元に考えると全く見当はずれの物といえます。
それは労働者1人当たりの創出付加価値いわゆる生産性というものです。
日本全体で労働者1人当たりの労働生産性は、約546万円と中小企業白書によって発表されています。
このデータを大企業・中小企業、そして中小企業を中堅企業と小規模業者に分けて見てみると驚く数字が出てくるのです。
大企業の労働生産性は1人当たり826万円と、日本の平均労働生産性を圧倒的に上回っています。
一方で中小企業の平均労働生産性を見てみると、中堅企業が457万円、 小規模事業者が342万円と圧倒的に低い数値になっているのです。
中小企業こそが日本の経済を支えているといった風潮はありますが、データを基に日本の経済がどのようにして成り立っているのかを分析すると、大企業によって維持されているといっても良いでしょう。
日本の企業における大企業と中小企業の割合は、中小企業が99.7%、一方で大企業の数は0.3%に満たない割合でしかなく、この0.3%が日本の経済を支えているのです。
日本の生産性だけではいまいち納得ができない方も多いと思われるので、 他国とのデータも比較してみましょう、
ここでは実際にEU28カ国のデータと比較して見てみます。
まずは EU 28カ国とドイツ・イギリスといった主要な国における、平均労働生産性を見てみましょう。
EU28カ国や主要なドイツ・イギリスといった国を見ても、 中小企業の労働生産性が低く大企業の労働生産性が高いのは明らかです。
どういった国であっても日本の中小企業と同じように、高い生産性を維持しているのが大企業であり、足を引っ張っているのが中小企業だということができるのではないでしょうか。
このように会社の規模が小さくなればなるほど生産性が低くなるということは、世界中の国々でデータとして既に実証されていることになります。
それにもかかわらず「日本の中小企業こそが経済を支えている」といった根拠のない理論が日本中の共通認識であるということが、これ以上長く続いてしまうと日本は世界から大きな遅れをとってしまうでしょう。
日本の国で中小企業が占める割合は約99.7%だということは上記でも少し触れました。
もっとも日本ではそもそも大企業に分類される企業の定義というのが、いまいち明確にはされていません。
中小企業には分類されないけれども、大企業という概念がないために便宜的に大企業と分類していることが多く、明確な数字を決める必要があるでしょう。
現にEUの28カ国において、大企業であると認識されている企業と比べると日本の大企業はかなり小さいものだと氏は指摘しています。
つまり日本で大企業とみなされている企業の多くは、 海外の国々から見ると中小企業の部類に入るものであり、大企業で働いているとされる人の割合は過大に見積もられているのです。
例えば日本が大企業が少なく、中小企業が多すぎるということを別の角度からも見てみましょう。
ドイツの人口は約8315万人おり、 約1万社だといわれています。
一方で我々日本の国総人口は現在約1億2600万人、そして大企業の数は約1.1万社です。
人口が全く違うのにも関わらず、大企業の数がほぼ一緒であることを考えると、 日本で中小企業が多すぎ、大企業が圧倒的に少ないといわれているのが分かるのではないでしょうか。
ここまで紹介してきたように日本で大企業とされているような企業は、世界の国々から見るとほとんどが中小企業になります。
日本が経済大国と言われていながらも、ほんの一部の企業しか世界で闘えることができるグローバル企業に成長することができていないのは、中小企業によってあまりにも産業構造が細分化されていることが原因の一端といえるでしょう。
ここまで解説してきたように、日本の生産性の低さは中小企業が原因であるということを氏は指摘しています。
しかしこういった指摘に対しては「そもそも中小企業は大企業によって搾取されている」 といった反論も考えられるでしょう。
確かに下請け業者に対しての大企業の無理のある要求や、様々な大企業の強権的なエピソードというのは事欠きません。
しかしこと生産性に関して論じるには、こういった大企業の搾取というのをエピソードではなくデータで本当に搾取されているのかというのを分析する必要があります。
しかし本当に大企業の搾取によって労働生産性が下がるのかどうか疑問であるということも氏は指摘しているのです。
搾取があったとすると上記のようなことが生じる可能性は十分にありえます。
しかしそもそも中小企業の生産性が低いのは、 その企業の規模が小さいからです。
大企業による搾取がなかったとしても、そもそも中小企業の生産性というのは低いものにもかかわらず、搾取されたから生産性が低くなるという主張はあまり意味がないでしょう。
中小企業が多ければ多いほど、特定の市場における競争は激化してしまいます。
少子高齢化によって人口が減りつつある日本においては、そもそも需要が極端に減少しているので、 中小企業の経営者が企業の生き残りをかけて必死に価格競争などに身を投じていますが、 これを搾取とはいえないでしょう。
そもそも企業の規模が小さければ小さいほど、社員のスキルアップをする余裕はなく最先端技術を導入する費用もありませんし、 研究や開発などをする余裕はありません。
こういった企業ができるのは結局のところ価格競争という札を切るしかできず、ますます労働生産性が低くなっていくのは当たり前のことといえます。
中小企業が生産性を落としているということを裏付けるデータとして、 もう1つ面白いものがあります。
それは日本で小規模事業者が減少したことによって、労働生産性が上がっているということです。
少子高齢化によって日本の企業数は2009年から2016年にかけて、421万社から359万社と実に62万社の数を減らしています。
この中で減ってしまった企業のほとんどは小規模事業者であり、その数およそ61.7万社がそれに該当するのです。
しかし小規模事業者が減っているということにもかかわらず、労働生産性は向上しています。
つまりやはり中小企業によって労働生産性が減少しているということなのです。
日本では少子高齢化によって、 今後労働人口が増えていくという見込みはできません。
そのためどうしても労働生産性を向上することによってしか、国際競争に打ち勝つことはできないでしょう。
そのためにはやはり中小企業をどこかで切る覚悟が必要になってきます。
高度経済成長期においては日本の人口もスムーズに増え続けていたこともあり、中小企業が増えてもあまり問題はありませんでした。
しかし現在では中小企業は無駄に人を雇ってしまうものとなっており、労働生産性を向上することができる大企業に人手を回すことができません。
そのためもはや労働生産性を増やさなければならない日本において、中小企業その中でも小規模事業者というのは邪魔な存在になりつつあるのです。
今回は日本企業の生産性はなぜ低いのかについて、 氏の主張をまとめてきました。
次回の第3回では低すぎる日本の最低賃金が生む問題について氏の主張を詳しく解説していきます