デービッドアトキンソン氏の主張により中小企業優遇政策はどう変わる?

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長かった安倍政権が終焉を迎えて、菅政権が誕生しました。

菅首相は、安倍政権の下で日本の成長戦略を立案し推進していた未来投資会議を廃止し、新たに「成長戦略会議」を設置。

成長戦略会議は、日本国経済の持続的な成長を達成するために、成長戦略の具体化を推進する役割を菅政権の下で担うことになります。

民間から著名な有識者が選ばれており、日本商工会議所の三村明夫会頭などを筆頭に、日本の経済の中核を担う人物が名を連ねている中、異彩を放っているのが「デービットアトキンソン氏」です。

菅首相と懇意にしていると報じられており、インバウンド業界や中小企業の生産性向上のために尽力してきた人物ですが、あまりよく知らない方も多いのではないでしょうか。

全5回に渡って、菅政権の成長戦略会議メンバーであるデービットアトキンソン氏について詳しく掘り下げていく中で今回は第四回目になります。

  • デービットアトキンソン氏の主張概論(第一回)
  • 日本企業の生産性はなぜ低いのか(第二回)
  • 低すぎる日本の最低賃金(第三回)
  • 中小企業優遇政策はどう変わるのか?(第四回)
  • 今後日本企業がどうしていくべきか(第五回)



アトキンソン氏は、生産性の低さは日本の中小企業の多さに原因があると常々主張しております。

そこでアトキンソン氏が、成長戦略会議に名を連ねたことによって日本の中小企業優遇政策がどのように変わっていくのかについて今回は詳しく見ていきましょう。

中小企業を優遇する時代は日本では終わった


さてこれを読んでいる読者の方は、国が中小企業補助し支援したりする理由をご存知でしょうか。

先進国では中小企業を補助し支援することは当たり前のように行われています。

この理由は「雇用を確保するために中小企業は必要不可欠であるから」なのです。

中小企業が増えることによって、労働生産性が下がってしまうことは本連載における第1回目・2回目にて紹介してきました。

そのため中小企業が増えることにより労働生産性が増えるのでマイナスの面しか無いように紹介してきたのは確かですが、一方で中小企業は「雇用を増やす」という点においてはかなり重要になっています。

実際世界各国の労働者のおよそ7割が中小企業で働いておりますが、 その労働生産性に注目すると総GDPの約5割と著しく劣っているのが分かるのではないでしょうか。

そのため国としては、労働生産性が低いが雇用の確保のためには必要不可欠な存在が中小企業であり、そのために保護や優遇策を取っているのです。

特に人口が毎年のように増え続けている国は、中小企業が増えることによって雇用を確保することができるので新規雇用の創出にも繋がり、経済に大きく貢献しているといえるでしょう。

しかし日本の場合はどうでしょうか。

日本は少子高齢化が進み、人材の確保というのが難しくなっている状況です。

そのため雇用の確保よりも、それぞれの企業の労働生産性を高めなければならない状況にも関わらず、中小企業が約99.7%を占めています。

国際競争力を高めるためには中小企業よりも大企業を増やすことで労働生産性を高めなければならない日本において、中小企業を優遇する時代は終わりを告げたといっていいでしょう。

中小企業の保護策は非生産性を生む 諸外国の事例を紹介

 

中小企業の支援策や保護政策で、 その国の産業構造が歪み非生産性につながってしまうことは様々な国で確認されています。

そこで諸外国の例について、以下で詳しく見ていきましょう。

企業規模の規制による産業構造の歪み フランス


業規模によって規制を行うことで、 歪みが発生する例としてフランスを氏は具体例に挙げています。

フランスは国際競争力において世界第17位に位置していますが、生産性は27位と大きく差が存在していますが、これは国による企業の希望をもとに行っている規制が原因だと言われていました。

フランスでは企業従業員数が50人以上になると、様々な労働規制がかかり、企業の活動において自由度が低下します。

そのため従業員数50人を超えることを企業は嫌い、この数を超えないように雇用を調整しようとしてしまうために、様々な有望な企業の成長が止まってしまうそうです。

労働生産性が国際競争力と大きく差が開いているのは、国として企業規模に応じ規制を行っているために中小企業が増えやすくなってしまっていることが原因でしょう。

もし仮に規制による負担がなければ、フランスの企業は大きくなることによって生産性も高まっていたはずです。

非効率な資源配分による非生産性 スペイン


スペインでは営業収益が600万ユーロ以上の企業に対して、税法を厳守するように法律が定められています。

最も収益が600万ユーロ未満の場合、600万ユーロ以上の企業と比較すると法人税が約3割少なく済むようになっているのです。

こういった法律を前にして、スペインでは収益を600万ユーロの直前で押さえる企業が爆発的に増え、企業規模の成長がストップしました。

企業自らが収益を抑えようと動くために、国全体として企業規模の成長が完全に妨げられ、社会の生産性も著しく下がってしまったのです。

優遇政策と規制は生産性の向上を妨げる

 

このように諸外国の例から見ても、企業規模に応じた規制は社会全体の生産性向上を著しく妨げることがわかりました。

日本においても大企業の規制はかなり厳しいものがありますが、一方で中小企業に対しての優遇策は手厚いものがあります。

中小企業を対象とした税制優遇や、補助金・助成金・信用保証といったものは幅広く提供されており、日本の中小企業の約40%は信用保証を受けているというデータもあるのです。

信用保証は中小企業の成長に貢献する一方で、企業が成長し中小企業とはもはや定義することができなくなった状態では、使えなくなってしまうため成長を自らストップする原因にもなっています。

日本の中で代表的な中小企業に対しての、優遇制度は主に以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • 法人税率の軽減
  • 欠損金の繰越控除
  • 交際費課税の特例
  • 投資促進税制
  • 少額減価償却資産の特例
  • 研究開発費税制
  • 消費税の特例

 

特に中小企業軽減税率の適用範囲は「 資本金1億円以下の企業」となっており、この範囲に収まるように企業規模を縮小するといった動きも見られます。

また2019年に行われた消費税の引き上げに合わせて、資本金が一定額以下の企業は補助金がもらえるという政策に対して、補助金目当てに資本金の減資をした企業が激増しました。

確かに企業規模を大きくせずに、優遇制度を目一杯利用するというのは、 経営者にとっては当たり前のことかもしれません。

最も補助金欲しさに資本金を減額するといった、合理性に欠ける中小企業まで存在することは忘れてはならないでしょう。

構造的欠陥を抱えた中小企業基本法


日本が現在のように生産性が低い企業規模になってしまったのには、ある年をきっかけにこのような動きが加速しました。

それは1964年の「 OECD 加盟」の年です。

OECDに加盟するためには、資本の自由化と貿易の自由化が必要になります。

その準備のために日本は1963年に「中小企業基本法」を制定しました。

1999年に改正されるまでは別名「中小企業救済法」とも呼ばれる、大企業と中小企業の格差が基本理念の法律です。

この法律が制定された頃から「中小企業は立場が弱く大企業に搾取されている」といったムードが日本の労働者の中で漂いつつありました。

当時あったオリンピック以降に不幸が起き、インフラ整備などの需要が一気になくなったため、日本経済全体が不況モードになってしまったからです。

そんな中に制定された中小企業基本法には、中小企業の規模が小さすぎたという構造的欠陥があります。

例えば、日本では中小企業を50~300人未満と定義していますが、一方アメリカなどでは業種ごとに中小企業の定義を明確に区別し500〜1500人未満としているのです。

他国と比較しても中小企業として認められるハードルが低くなってしまったために、中小企業が激増してしまい労働生産性が下がってしまう結果となってしまいました。

このように現在の日本にとっては限界を迎えてしまっている中小企業基本法が、労働生産性を著しく下げてしまっている原因ともいえます。

成長しない中小企業〜中小企業基本法犯人説〜


このように中小企業基本法だけが、日本の労働生産性を下げてしまっている犯人だと決めつけてしまうのは早計でしょう。

なぜなら中小企業基本法によって、中小企業が激増してしまったとしても、それらが大企業に成長すれば労働生産性が下がることはないからです。

企業規模が大きくなれば大きくなるほど、 労働生産性は上がることが分かっているので、中小企業が成長することによって労働生産性を改善することは可能でしょう。

しかし残念なことに、高度経済成長期に誕生した企業は、創立した時からほとんどが中小企業のまま成長しておらず、同じ事業規模で今もなお存在しているのです。

また「中小企業白書」によると、2012年から2016年にかけて存続していた日本の295万社の企業の中で、企業規模を拡大することによって規模間移動した企業は約7.3万社と、たったの2.5%しか存在しないことが発表されました。

95%近くの企業が、規模感移動をするまでに成長していないということになるため、 日本の生産性がいつまでたっても上がらないことは簡単に予想することができるでしょう。

中小企業の規模を大きく定義すると生産性が高くなる

 

日本では小売業やサービス業における中小企業を50人未満に定義している一方で、製造業は従業員を300人未満のものを中小企業として定義しています。

これによって製造業は小売業・サービス業と比較しても生産性が高くなり、一方で小売業・サービス業においては生産性が著しく低迷してしまっているのです。

また経済の発展とともに平均寿命が延びることによって、その国の需要というのは製造業から徐々にサービス業へと移行していきます。

日本でも経済発展とともに平均寿命が著しく延びることによって、需要は生産性の高い製造業からサービス業へと移っていってしまっており、日本の生産性が低くなってしまっているのです。

中小企業は守られるべきという感情論は捨てろ


日本は少子高齢化が加速的に進んでおり、先進国の中でも圧倒的なスピードで人口減少が起こっています。

そのため社会保障制度維持するためには、抜本的な経済制度の改革をしなければいけません。

例えば八百屋や肉屋をはじめとする小売業は、生産性が圧倒的に少ない業種になります。

確かにこういった小売業を代表とする中小企業を優遇し守ることは重要になりますが、一方でこういった生産性の低い業種を保護しても社会保障を維持することはできません。

社会保障制度を維持するためには、こういった生産性の低い小売業を失くし、 生産性の高い業種へと人的リソースを割り振らなければいけないでしょう。

こういった抜本的改革を「中小企業や小売店は保護されるべき」といった感情論で拒むようであれば、長生きすることを諦めるか、社会保障制度自体を諦めるかの二択しかありません。

超高齢化社会で社会保障制度を維持するためには、生産性の低い犠牲はやむなく、生産性を上げて対応する以外ないのです。

こういった思想を持つデービットアトキンソン氏が、成長戦略会議に名を連ねたということは、中小企業の優遇政策が減らされていく可能性は高いでしょう。

今回は中小企業優遇政策はどうなっていくかについて解説してきました。

次回は本連載最後として日本企業は今後どうしていくべきなのか、について語っていきたいと思います。

 

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