コロナ時代の経営戦略

covid-19

新型コロナウイルスが日本で流行し始めた2020年3月。
国による様々な施策が打たれ状況は少しずつ改善されてきている。

ただ、4月に発動された国の緊急事態宣言により、多くの企業が苦境に立たされている。
業界問わず、あらゆる企業が売上減少に直面しているが、なかでも深刻なのは観光業界である。
地方の温泉や旅館を経営している老舗企業の中にも前年比売上10%を割っているところは数え切れないだろう。
不要不急の外出自粛を要請し、様々な方面から圧力を受けているため、身動きが取りづらい状態となっている。
毎月の固定費や人件費などで、経営はストップしたままなのにも関わらず、手元のキャッシュだけが流れ出ていく。

では、そうした観光業を事業の軸としている地方の老舗企業に、生きる道はないのか。
今回は、現在の観光市場の状況と課題を明確にし、コロナ時代の経営戦略について考えてみようと思う。

現状と課題

現在の日本の観光市場の全体規模は、およそ26.1兆円である。
客層を大きく3つに分けると、「海外からの旅行者層」「日本から海外への旅行者層」「国内旅行者層」になる。

そのうち4.5兆は海外からのインバウンドであり、日本から海外への旅行者規模はおよそ3兆円。
残りは国内旅行である。よって、国内旅行の市場規模は約18.5兆円になる。

また、政府や各自治体から自粛要請によって、県を跨いだ移動がしにくい雰囲気となっており、政府が行っている「GO TO キャンペーン」も望んだ結果を生んでいるかどうかは不明瞭だ。

以上が大まかな観光経済の現状である。

次に課題。

課題は、大きく2つに分けられる。

1つは、三密回避
これからは観光業界に限らず、あらゆる業態で三密回避は前提となるだろう。
そして、三密対策に伴う不安解消の可視化。
客は、企業側がいくら三密対策をしていると喧伝したとしても、漠然とした不安は拭いきれない。

2つ目は、上記を踏まえた国内旅行者に対する魅力的なサービスの提供である。
しかし、現状では県外への旅行は様々な障壁があるため、実質的に需要があるのは県内旅行だろう。

以上が、現状と課題である。

そんな状況下で老舗企業(ここでは老舗旅館)ができることは何か。

まず、老舗の価値とは、確立されたブランドから来る安心感と、隅々まで行き届いたハイクオリティで安定したサービスの供給だと考える。

先代の伝統を引き継ぎ、長年にわたって質の高いサービスを提供してきたことは紛れもなく企業の大切な財産であり、顧客だけでなく地域の信頼も厚いことは想像できる。

そして、その企業たちがこれからやるべきことを、ターゲットとなる層から考えてみれば自然とコロナ期を生き延びる方法が見えて来るのではないだろうか。

まず県内旅行者をターゲットに設定すれば、従来のインバウンド需要を背景とした「その地で取れる特産品」ではなく、地元の人に向けた「その地で食べることができない、県外の美味しいもの」の需要が発生する。
「おうち時間」が象徴するように、家でどうやって充実した時間を過ごせるかを考える人が激増しているが、それはつまり多くの人が「非日常」を求めていることの証拠だろう。
そこをターゲットに据え、「老舗旅館の一流の料理人が調理する全国の美味しい食べ物」という打ち出し方をすると、地元の方たちに「非日常」を提供することができ、満足度もきっと上がるだろう。

次にやるべきことは、三密回避の可視化である。
日々発表される感染者の数がどれだけ減ったとしても、漠然とした感染への不安は簡単に消えるものではない。
同時に、サービス提供者が取り組むべき、もっとも重要な問題でもある。

その不安解消のために、ある企業は食事の際に個室を準備したり、ビュッフェ会場の混雑状況を見れるように、客がスマホで会場をモニタリングできるようにするなど、IT技術も絡めた施策を打っている。

フェイスシールドや消毒の基本的な対策は継続しつつ、上記のようなもうひとつ踏み込んだ感染対策を行うことが、コロナ危機を乗り越えるために必要なことだと思う。

さらに、ITを活用する必要性はますます高まってくるだろう。
非接触型の接客サービスの需要は増していくことが大いに想定されるなかで、IT技術は必須になりうる。
具体的には、旅館におけるフロントでのサービスをオンライン化することや食事の提供を機械に任せることなどが挙げられる。

ただ一方で老舗企業は、こうした現代のテクノロジーに対応することが難しいのも事実だろう。
テクノロジーを利用することで少なからず失うものもあるからだ。
例えば、女将さんの人情味あふれる接客や会話など、本来人間に必要な接触だ。
これらは失ってはいけないものだと思うが、IT化が遅れている老舗企業には今回のコロナショックは良い機会となるのではないだろうか。
一度導入してみて、完全自動化ではなく、出来る限り上で述べたような人間同士の接触を残しつつ、効率化できるところは徹底的に効率化していく。
このスタンスがこれから重要であろうし、むしろコロナによって必須になってくると考える。

コロナが社会にもたらす大きなものに効率化がある。
経営戦略を練る上で効率化は非常に重要な要素の一つだが、常に非効率なことがもたらすメリットも配慮し、バランスを見極めることも重要である。

日本の古き良き伝統は、世界に誇れる文化がたくさんあり、それを殺してはいけない。

そして最後にもっとも重要なことは、情報収集だ。

これは老舗企業に限ったことではないが、状況が刻一刻と変化する中、たくさんの情報が世に出ている。
テレビ局のニュースではなく、できれば日本医師会が発表している専門家たちの研究論文や、出来れば海外の学者が発表している論文にも少しばかり目を通して、未来の予測に役立てることが重要だ。
日々最新の情報に触れることが、正しい戦略を練る上での第一歩だろう。
本当に効果がある感染防止対策や、世界の感染者数の動向、治療薬の開発進捗など、重要な情報は日々アップデートされている。

とはいえ、日々の業務で多忙な観光業界の方たちはなかなか情報収集の時間を取れないだろう。
ただしかし、このような緊急事態下においては情報が命であると言っても過言ではないため、専門のチームを立ち上げたりしても決してやり過ぎではないように思う。

もちろん、医療の情報だけでなく、経済関連も必須だ。
世界の優秀な専門家たちが立てる経済予測を学ぶことで、医療と経済のバランスが取れた本当に戦略的なプランを立てることができるだろう。

話が少し逸れてしまったが、全体的な計画としては、県外からの旅行者が戻ってくるまでは、地元の方たちをターゲットにしつつ上記のことを行い、適切な経営戦略を練ることで1年間は持ち堪えることが肝要だろう。
そうすれば、次に県外旅行者層が戻ってきて、治療薬が開発されているであろう2年後には、海外からのインバウンド層を取り込み、従来の売り上げに戻していくことが賢明であると考える。

以上のように、ウィズコロナの時代にあたって必要なことは沢山あるが、老舗企業の最大の特徴である、今までの信頼の蓄積と資本力をベースに、正しい情報をもとに、的確な戦略を立てることが必要不可欠だ。
そして、戦略を考え抜いた結果生まれたノウハウは、どんどん世の企業に共有し、業界が一致団結することも大事なことではないだろうか。

この危機を乗り越えた先には、きっと今までより一層強くなった新しい自社を見ることができるだろうし、ひとつでも倒産する会社が少なくなることを祈っている。

 

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